+ 97 + ページ48
.
膝を抱えていたAに、ちょうどのタイミングで夕日が照らす。
その姿は、医大時代を思い出させた。いつも彼女が弱っている時は、こうやってそばにいた。
「どうしたいんだよ、Aは」
『尚ちゃんと、命を救いたい。』
顔を上げた彼女の顔は涙で濡れていたけど、はっきりとそう言ったけどすぐに、肩を落として弱々しく、こう言えたらいいのに、って。
『でも……私、尚ちゃんみたいに、勇気もないから。』
鼻を啜って、再び顔を下に向けて俺に言ってくるAは、そんな自分に悔しいのかスクラブを握りしめる。
まぁ確かに、なんだかんだ言って、彼女が勇気を出した姿は見た事がない。その場の流れでどうにかなっていたり、物事が進んでたから。
「じゃあ、勇気が出ない時は……俺を思い出せばいい」
『……尚、ちゃんを…？』
「ああ。
どんなに悪く言われても、俺はお前の味方だ。
MERで、俺と命を救いたいって思うなら、それをぶつければいい。」
『でも……それで、病院を追い出されたら……』
「その時は────俺がお前を養ってやるよ」
『……なにそれ』
「そのままだ。
お前一人くらい養えるくらいの、蓄えはある。医師免許剥奪じゃないんだから、フリーランスにでもなって、MERに来ればいい。」
『ばかじゃないの……』
自分でも何を言っているのか分からない。本当に、馬鹿みたいなことを言ってるって、理解してる。
けど、どこかスッキリした顔で口角を上げるAが見れるなら、馬鹿って言われてもいい。
今の俺には、こうすることしか出来ないし、彼女も彼女で、これ以上の言葉は望まないだろうし。
『……ごめん、ありがと、尚ちゃん』
「別に
……ほら」
『…なに？これ』
涙を拭う彼女の前に、鞄から水色の箱を置く。普通に、涼香さんから念まで押されていたこれを、忘れるところだった。
「赤ちゃんを助けてくれたお礼らしい。」
『フィナンシェ……涼香ちゃんから？
…珍しい、尚ちゃんが食べてる』
甘いもの好きじゃないよね？と、首を傾げて俺が食べたものより少し大きいそれを手に取ったAは、1口食べる。
『美味しいなぁ、涼香ちゃんのお菓子』
「店で売ってるのと大して変わんないだろ」
『いやいや、涼香ちゃんって味だもん。別格。』
お店出せるよ、なんて感心してるのを他所に、ソファから立ち上がれば、彼女に背を向けて呟く。
「俺は、お前が作るものの方が好きだけど」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 419人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
どこかのムスメ(プロフ) - Riaさん» コメントありがとうございます！そうですよね、私も駒場さん好きなので、なかなかないなら作ってしまえ！ってノリで作ったので、そのように言ってくださると作った甲斐がありました笑 (12月2日 10時) (
レス) id: c3671cae8b (このIDを非表示/違反報告)
Ria(プロフ) - 素敵なお話ありがとうございます 駒場室長が出てくるお話は中々ないので室長ファンとしては凄く嬉しいです (12月1日 12時) (レス) @page11 id: b18326fb22 (このIDを非表示/違反報告)
どこかのムスメ(プロフ) - 青髪さん» 読んでくださってありがとうございます！私が見ていたドラマからなので、偏ったりがありますが……。四宮先生は出したい欲があるので、楽しみに待っていてください！他に、出して欲しいキャラとかいたら、コメントに書いてくだされば出すかも…なので、お気軽に！ (2021年8月18日 22時) (レス) id: ca5bf8a95f (このIDを非表示/違反報告)
青髪(プロフ) - 初めまして。一気にIから読んでしまいました…！！ちょいちょい医療ドラマの先生とか出てくるのが楽しみな自分もいます…！！コウノトリから鴻鳥先生や四宮先生も出てくる事を祈ってます！！更新待ってます！！！ (2021年8月18日 21時) (レス) id: 8f192a2bc7 (このIDを非表示/違反報告)
どこかのムスメ(プロフ) - sho.kano0129さん» 藍沢先生……考えますね、楽しんでくれてるようで、こちらも嬉しいです！笑 (2021年8月17日 11時) (レス) id: ca5bf8a95f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：どこかのムスメ | 作成日時：2021年8月13日 12時
