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「優ちゃんも本当は分かってるくせに。腕力なんかじゃ、吸血鬼をどうにもできないって…」
ミカ兄様の声が悲しそうに滲む。
…そうだ。僕たち人間は無力で、吸血鬼なんかにとっては虫けらと変わらない。
できることなんて、今の僕たちには一つもないんだ。
「…だからって…」
優兄様の言葉を遮って、カツカツと足音が響いてきた。
白い、シミ一つない洋服。
長い銀髪を後ろで一つ結びにして、赤い瞳を楽しそうに輝かせている。
「あいつ…フード、被ってねぇ…。貴族か…？」
優兄様が僕の腕を掴んで、守るように背中に回す。
「ミカ兄様、」
「フェリド様！」
声をかけようとした瞬間、ミカ兄様が飛び出していった。
「は？…お、おい！ミカ！」
優兄様の慌てたような声も無視して、ミカ兄様は吸血鬼に向かって走っていった。
「ん？やぁ、ミカ君。今夜も僕の館に来るのかい？」
「お願いします！」
「いい子だねぇ。君の血は美味しいから、大歓迎だよ」
フェリド、と呼ばれた吸血鬼は、ミカ兄様の頬を撫でた。
「…今日はそっちの子たちも来るのかな？」
僕たちの方を見た。
吸血鬼特有の赤い瞳。
ばっちり目が合って、恐怖で動けなくなった。
「はぁ？行くわけ…むっ？」
ミカ兄様が優兄様の口を塞いで、僕の方を見て少し笑った。
大丈夫、とでも言うようなその笑顔に少し力が抜ける。
「彼らは恥ずかしがり屋さんなのでまた…」
「むーーーっ！！」
「そう？それはざーんねん。…ミカ君の後ろにいるその子、すごーく美味しそうなのに…。じゃあまた館で会おうか」
「…はい！」
こちらに背を向ける直前、僕を品定めするような目で見ていた。
怖くて怖くて、膝が震えている。
「A、安心して。僕が守るから…」
ミカ兄様に髪を撫でられる。
その瞳が苦しそうで、僕は咄嗟にうつむいた。
「…僕、アカネ姉様のとこに行って来ます」
早口で言って、走り出す。
あのままあそこに居たら、きっと僕は泣いてしまっていたから。
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