拾陸 ページ17
「愛…？」
「そう、愛。僕らはね、ソレが一番苦手なんだ。欲望は好きでも、愛は嫌いなんだ。与一、君月、シノア、仲間。何だよそれ、Aだけ居場所もらって、ずるいじゃねーか」
血だらけで倒れるミカ兄様と優兄様が口々と僕に向かって言葉を吐く。
「…鬼さん、…僕の家族の姿でそういうこと言うの、やめてもらえますか…？そんな幻覚見せられても、僕は何も思いませんなので…。そんなくだらないモノを見せるより、とっとと力を寄越せよ鬼」
僕の腹に突き刺さった真っ黒な物体を勢い良く引き抜く。
鬼が笑った。
「すごいね、君。愛と欲望が絡み合った、すごい矛盾…。これだから人間は世界を壊すんだ」
「…何が言いたいのですか」
目の前の黒いモヤモヤを睨めば、笑い声が一層大きくなった。
「くふ、面白い。いいよ、力をあげるよ。まぁ僕が飽きるまでだけれどね。飽きたら君の体をもらうけど、良いよね？」
「…はい。きっと飽きさせませんので」
「あー、やっぱり面白い。君に従うよ。…僕の名前は阿朱羅丸。力が欲しいときは名前を呼んでよ」
黒いモヤがふわりと掻き消えて、鬼…阿朱羅丸の姿が現れる。
僕よりほんの少し背丈の小さいそいつは、小首をかしげて僕を見上げてきた。
「ねえ、もう行くの？まだ話そうよ、君面白い」
「…また今度にしていただけますか？仲間が待っているんです」
「ふぅん…仲間、ねぇ。まあ良いや、またねA」
ふわ、と意識が遠の…かなかった。
目の前に急にグレンの顔が現れる。
「お、A」
「ただいまです」
ちらりと両手に目線を落とすと、鬼呪装備が握られていた。
「随分時間かけやがって」
「…君月、早かったんですね。…与一は？」
言い終わるが早いか、与一のいる方向から爆音のようなものと同時に煙が上がった。
「あー…与一はやっぱ、ちょい力が足りんかったか…」
…まさか。
「ま、『黒鬼』に挑戦して三分の二は良い方だろ」
「与一が、負けた…？」
思わず呟く僕をよそに、グレンはいつもと変わらない口調で言った。
「よし！鬼呪装備も手に入ったことだし、吸血鬼殲滅部隊月鬼ノ組での初任務をお前らにやる。天井を見ろ。人喰いの鬼が出た、二人で始末しろ」
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