壱 ページ2
いつもと同じように血を取られるのを待っていた。
「ミカ、A」
優兄様が、本から顔を上げる。
「なあ、これ見てみろよ！吸血鬼ども、頭破壊されると死ぬらしいぞ？」
「…？」
「……ちょっと考え事してるんで、話しかけないでくださーい」
ミカ兄様が気だるそうに言った。
でも、そんなことを調べて優兄様は何をするつもりなんだろ？
「あと、腕についてる腕章みたいな装置外すと紫外線で死ぬらしい！」
「興味ナッシングでーす。だいたい優ちゃんそんなの調べてどうするんだよ」
ミカ兄様に賛成の意をこめて大きくうなずくと、優兄様の眉がつり上がった。
「そりゃ決まってんだろ！強くなって吸血鬼どもぶっ殺すんだよ！」
「はい出た、アホ発言。あのね、人間が吸血鬼より強くなれるわけないでしょが。頭使ってよ」
「ミカ兄様の言う通りだと思います…」
「ほら、Aもこう言ってる」
「んなの、やってみなきゃ分かんねぇだろ！」
ミカ兄様が呆れたように体をおこして、優兄様を睨んだ。
「いやいやいや、わかりまくりでしょ…。優ちゃんが読んでるその本にも書いてあるしさ。人間の身体能力は吸血鬼の七分の一しかありません、って」
でも優兄様は、よく予想外な行動をするからなぁ…。
「やってみた所で血を吸われておしまいです…。優兄様、無茶しないでください…」
「関係ないね！だったら、頑張って七倍以上強くなりゃ…」
「じっとしてろ」
フードを被った吸血鬼達が、優兄様の腕を掴んだ。
ぷつ、という音と共に針が身体の中に入ってくる感覚。
「い、た…」
ゴポッ、と瓶の中に紅い液体が注がれていく。
思わず身を捩った。
「動くな」
何度やられても、この痛みにだけは慣れない。
「お前らは、我々吸血鬼に生かされているんだ。ただ大人しく血を差し出していればそれで良い」
少しくらくらしてきた。
僕は体が小さい。だから、体の中の血の量も他と比べれば少ない。
「A、大丈夫？」
ミカ兄様の声すら、頭に響く。
ぷつん、と針が抜かれて、ほんの少し血が流れ出す。
いつの間にか止めていた息を吐き出して、ミカ兄様に向かって首を縦に振った。
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