もう一声 ページ42
「……土方さんのこと、好きです」
「ッ……、おう」
「…ねぇ土方さん、」
「…ん?」
「……土方さんは?」
土方さんのことをこれでもかと困らせては、私はひとつそんなおねだりをした。まだ、彼からの返事を貰っていない。正確には以前にも彼の気持ちは聞いているのだけれど、あれから彼の中で何かの変化がない限り、彼の答えは知っているのだけれど。どちらかと言うと私の言葉があの日の彼の言葉への返事なのだけれど、彼の言葉を聞けないと、安心できないというか。さっきからずっと、土方さんに抱き締められながら、その体温に安堵しながら、そわそわとするという矛盾を感じてしまっていた。安心するならとことん安心したいし、単純に、彼からの言葉をまた聞きたかった。これは単なる私のワガママだ。だって、好きな人からのそんな、自分がその人の特別であることを感じられる言葉なんだから。聞きたくなってしまうなんて仕方のないことだ。
彼の中にあるその気持ちが変わっていないことを、私は彼の瞳から。彼の体温から。彼の手のひらから。彼の表情から知っていたけれど、それでも。もう一度それを、聞きたかった。今度こそ、ちゃんと頷いて、受け止めたかった。お互いの想いを確認し合って、繋ぎたかった。
土方さんは私のその言葉に動揺するように少しの間黙って、それからきっと覚悟を決めて、息を吸い込んだ。そうして、そっと、なんだか不貞腐れたように、呟く。
「……好きだよ」
「もう一声」
「鬼か」
鬼ではない。鬼の副長に恋をした乙女なのである。そんな乙女の願いはぜひ叶えて頂きたいものだと、私は彼の胸板に埋めていた顔を上げる。見上げると、耳まで赤くした土方さんが居て、あぁ困ってる困ってる、とついつい楽しくなってしまって、無遠慮に笑みが零れてきてしまった。そんな私の笑みを見て彼は舌打ちをして。
「笑ってんなよテメェ」と言いながら私の前髪をどけてはデコピンをくらわせてきた。いたっ、と反射的に目を閉じる。すると、隙ありと言わんばかりに、彼は私の唇に自分のをそっと押し付けてきて。今度は私が大きく目を見開かされることになった。
「…間抜け面しやがって、ざまぁみろバカ」
「ッ…やっぱ殴る…」
「うおおおおお悪かった悪かった!!落ち着け!!その拳をしまえ!!な!?」
夜の神秘的な静寂を盛大に乱しながら。月明かりがまったく似合わないような夜を演出しながら。私達はそんな小競り合いをしては、どちらからともなく吹き出して。
そうして、それが当たり前だというように、自然な流れで、もう一度唇を合わせた。
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Karin(プロフ) - この作品が好きすぎてもう4回ぐらい読み返してます。とっても面白くて、感動的で、大好きな作品です!銀魂のedにも使われていた桜音という曲を聴いた時に、この作品の高杉と主人公のことみたいだなぁと感じました。高杉と恋仲だった頃の話も見てみたくなりました笑 (8月4日 19時) (レス) id: 9e7f4b97d1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ありがとうございます!こんなご時世ですので暇をもて余すこともあるかと思いますが、私の作品なんかで良ければ読んでやってください!! (2020年5月9日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - ピピコさん» 嬉しいです!楽しみに待ってます(o^^o)その間ピピコさんの小説何度も読み返しますね笑 (2020年5月9日 21時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ミウラさん!ありがとうございます…!!最後まで読んでくださり感謝です…!!高杉さんが出てくるシーンは本当に難しかったです…自分でも書いててしんどかった…!!高杉さんのお話もそのうち書きたいなぁと思っていますのでお楽しみに(o^−^o) (2020年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 一気に全巻読めちゃうくらい面白かったです!晋助様のシーンがしんどすぎてずっと泣いてました…笑次は晋助様落ちの小説も書いて欲しいです! (2020年5月9日 8時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年6月14日 19時