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今ここで ページ34

「待って、ください」


…縁側に腰掛けていた土方さんが立ち上がろうとした瞬間に手を伸ばして、彼の着物の袖を摘まんでいた。衝動的な行動だった。ほぼ無意識のうちに手を伸ばしていた。キュ、と、離れてしまわないように、けれど強くはない力で。切実な弱さを持った力で、彼を引き止める。土方さんは少しだけ目を丸くさせて、私を見下ろしている。私も彼を見上げている。彼にかけた「待って」の言葉が、なんだか酷く切なげに夜の闇に響いてしまって、後から恥ずかしくなってくる。頬に熱が集まるのを感じながら、それでも逸らすことなく彼を見据える。自分が今どんな顔をしているのかわからない。どんな顔で、どんな目をして彼を見ているのだろうか。情けない顔をしていることは確かなような気がして顔を背けたくなるけれど、彼を引き留めたのは私なのだ。今更躊躇っていられない。

土方さんは小さな驚きを受け止めたように目を細めて、私の声の余韻が十分になくなってから、私はまた口を開く。なるたけ震えてしまわないように心掛けながら。


「…私は大丈夫です。あまり長くもなりません。…それに、」


息継ぎをしてから、続ける。後にまた大量に必要となることが確定されている勇気を振り絞って。


「…今、ちゃんと伝えたいんです」


…いつ伝えたって、何処で伝えたって、伝える言葉は変わらない。けれど、今ここで彼に伝えることに意味があるのだと、漠然と私はそう思う。

…こうして隣に居るだけで溢れて溢れて止まらない想いを、これ以上放置することなんて出来ない。


「…わかった、聞く」


土方さんはしっかりと私の言葉を受け取ってくれて、また隣に座り直した。名残惜しく私は彼の着物の袖を離して、ありがとうございます、と呟いた。

ドクン、ドクン、と、心臓が肋骨の奥で音をたてている。そこから飛び出してくるんじゃないかってくらいだった。深呼吸だとバレない程度に息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。私らしくない。こんなに緊張して、伝えたい言葉があるのに言葉をひたすら探すだなんて。いつもだったらどんなことだってさらりと言ってのけて、言いたいことは言ってしまうのに。

本当に、ままならないものだ、この感情は。


「……土方さん」

「……ん?」


彼の名前を呼べば、低くて優しげな声が聞こえてくる。少しだけにがさを含んだ香りが辺りに漂っていて、それが私と彼を包み込んでいる。その香りに、微かに安堵を覚えながら、また言葉を紡ぐ。

彼だから→←前置き



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設定タグ:銀魂 , 土方十四郎 , 真選組、攘夷   
作品ジャンル:アニメ
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Karin(プロフ) - この作品が好きすぎてもう4回ぐらい読み返してます。とっても面白くて、感動的で、大好きな作品です!銀魂のedにも使われていた桜音という曲を聴いた時に、この作品の高杉と主人公のことみたいだなぁと感じました。高杉と恋仲だった頃の話も見てみたくなりました笑 (8月4日 19時) (レス) id: 9e7f4b97d1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ありがとうございます!こんなご時世ですので暇をもて余すこともあるかと思いますが、私の作品なんかで良ければ読んでやってください!! (2020年5月9日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - ピピコさん» 嬉しいです!楽しみに待ってます(o^^o)その間ピピコさんの小説何度も読み返しますね笑 (2020年5月9日 21時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ミウラさん!ありがとうございます…!!最後まで読んでくださり感謝です…!!高杉さんが出てくるシーンは本当に難しかったです…自分でも書いててしんどかった…!!高杉さんのお話もそのうち書きたいなぁと思っていますのでお楽しみに(o^−^o) (2020年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 一気に全巻読めちゃうくらい面白かったです!晋助様のシーンがしんどすぎてずっと泣いてました…笑次は晋助様落ちの小説も書いて欲しいです! (2020年5月9日 8時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/  
作成日時:2018年6月14日 19時

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