前置き ページ33
土方さんは今まで話していた事柄をなかったかのように偽装したがっているようなのだけれど、そんな彼の横顔を私はじっとりと湿度高めの視線で見据えていた。土方さんがこの話題から逃げたいと思っていようと関係ない。私はそれが気になって気になって仕方がないのだ。そんな面白そうなことがあったかもしれないなんて可能性を見つけてしまったら、誰だって釘付けになるだろう。このままでは、気になりすぎて夜しか眠れなくなってしまいそうだ。けれど、ここでしつこく聞き出したとして、土方さんが真実を赤裸々に語ってくれるとも考えづらい。意地っ張りなところがあるということを十分に私は理解していた。それに、彼の言う通り、彼に話があってここに来てもらったのだから、あまり脱線しすぎても良くないと思うのもある。
渋々ではあるものの、私は一旦土方さんからじっとりとした目を外して問い詰めることを諦めることにした。いや、諦めたわけではない。今はお預けにするだけだ。それに、いざとなったら近藤さんや沖田くんに聞いてみればいいのだ。三人は武州からの知り合いだと言うし、写真くらいあるかもしれない。そこを狙ってみることを決めて、私は意識を切り換える。
…そうして、伝えるべきことを、伝えたいことを丁寧に心に並べていく。なんだか妙に緊張して来てしまうけれど、それを隠すように笑って。
「…そうですね、取り敢えず土方さんの疑惑は後にして、本題に入りますか」
「前置きが長すぎんだよ」
「土方さんがいつになくいい反応見せるからでしょうが」
なんて小競り合いをいつものように繰り広げながら。なんだか神秘的な月明かりが照らしている静寂を乱しながら、私は少しずつ音をたてる早さを増していく鼓動を感じていた。まったく、さっきまでわりと平気そうだと思っていたのに。さらりと。爽やかに伝えて見せようと思っていたのに。やっぱり最終的にはこうなってしまうのだ。自分の足元を見据えて、唇を引き結ぶ。
この特別な気持ちを伝えるのは、二度目だ。既に経験しているものなのに、どうしてこんなにも、初めてみたいにドキドキしてしまうのだろう。
「……A?」
「あ、……へ?」
黙りこくっている私に気付いてか、土方さんは今まで逸らしていた目をこちらに向けている。パチリと目があった。急に静かになった私を不審に思ったのかもしれない。
「大丈夫か…流石に疲れてるよな、今日はやっぱり休むか」
「え、」
話はいつでも聞くから、と。彼はそう言いながら私を案じて立ち上がろうとする。
瞬間、手を伸ばしていた。
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Karin(プロフ) - この作品が好きすぎてもう4回ぐらい読み返してます。とっても面白くて、感動的で、大好きな作品です!銀魂のedにも使われていた桜音という曲を聴いた時に、この作品の高杉と主人公のことみたいだなぁと感じました。高杉と恋仲だった頃の話も見てみたくなりました笑 (8月4日 19時) (レス) id: 9e7f4b97d1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ありがとうございます!こんなご時世ですので暇をもて余すこともあるかと思いますが、私の作品なんかで良ければ読んでやってください!! (2020年5月9日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - ピピコさん» 嬉しいです!楽しみに待ってます(o^^o)その間ピピコさんの小説何度も読み返しますね笑 (2020年5月9日 21時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ミウラさん!ありがとうございます…!!最後まで読んでくださり感謝です…!!高杉さんが出てくるシーンは本当に難しかったです…自分でも書いててしんどかった…!!高杉さんのお話もそのうち書きたいなぁと思っていますのでお楽しみに(o^−^o) (2020年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 一気に全巻読めちゃうくらい面白かったです!晋助様のシーンがしんどすぎてずっと泣いてました…笑次は晋助様落ちの小説も書いて欲しいです! (2020年5月9日 8時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年6月14日 19時