痛い 高杉side ページ3
『ったく、前見てねェから転ぶんだよ。ただでさえドジなくせに』
『ど、ドジじゃないもん』
『ドジじゃない奴はあんな派手に転ばないんだよ』
Aの膝の裏に手を入れて倒れてしまわないように慎重に立ち上がった。Aは俺の肩に両手を置いて、きっと頬を膨れさせていただろう。『…だって、違うもん』なんて不満げな声を漏らしていた。どうやらドジだと言われたことが気にくわなかったらしい。だが、ソイツがドジだということは事実であり、俺はAが今みたいに転んでは泣いて、棚に足の小指をぶつけては泣いて、という光景を塾に入ってから何度も目にしているので、その言葉を訂正するつもりなどさらさらなかった。だが、それ以上ドジだの何だのと小言を漏らすことはなく、無言で歩き出した。モンシロチョウはAが転んで泣いたことなんか気にも留めないで、既に何処かへと飛んでいっていた。
…というか、蝶を追いかけていた挙げ句に転んだとか、本当にガキだなと俺は内心で呆れていた。Aは純粋で、言い換えると子供だ。俺より年下なのは知っているが、そこまで年が離れているわけでもないだろう。時々、Aがいくつも年下なように感じることがある。その時も、そう感じていた。
折れ曲がったAの膝をチラリと見る。砂で汚れていて、血がまだ出ているようで痛々しい。松陽の所に連れていく前に、膝を洗わせた方がいいかもしれない。
『…でも、今度から気を付けるよ』
と、Aは呟いた。一瞬何のことだか分からなくて、けれどすぐに思い当たる。先程俺が指摘したことに対しての返答だった。
『そうしろよ。生傷絶えねェだろうし』
『うん、痛いのは嫌い』
ポツリ。Aは頷いてはそう言う。ズズ、と鼻をすする音が聞こえてきて、鼻声だった。だが漸く泣き止んだらしく、背中でずっと泣かれていたら嫌だなと思っていたので助かった。
…痛いことは、嫌い。その言葉に、俺はとある疑問を抱いた。
『痛いのが嫌いなのに、剣道やってんのか?』
『え?』
俺は問いかけ、Aが首をかしげたのが分かった。俺は続ける。
『頭とか腹にも竹刀当たるし、尻餅はつくし、痛てェことだらけだろ』
他の武道と比べたら少ないかもしれないけれど、それでも痛みは伴うだろう。思い返してみれば、強めに竹刀が頭に当たって、めそめそ泣いていたこともあった。それなのに、どうして剣道を続けているのだろうか。不思議だった。痛みを恐れるのなら、じっと大人しくしていればいい。
Aは少しの間をおいてから、口を開いた。
619人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Karin(プロフ) - この作品が好きすぎてもう4回ぐらい読み返してます。とっても面白くて、感動的で、大好きな作品です!銀魂のedにも使われていた桜音という曲を聴いた時に、この作品の高杉と主人公のことみたいだなぁと感じました。高杉と恋仲だった頃の話も見てみたくなりました笑 (8月4日 19時) (レス) id: 9e7f4b97d1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ありがとうございます!こんなご時世ですので暇をもて余すこともあるかと思いますが、私の作品なんかで良ければ読んでやってください!! (2020年5月9日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - ピピコさん» 嬉しいです!楽しみに待ってます(o^^o)その間ピピコさんの小説何度も読み返しますね笑 (2020年5月9日 21時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ミウラさん!ありがとうございます…!!最後まで読んでくださり感謝です…!!高杉さんが出てくるシーンは本当に難しかったです…自分でも書いててしんどかった…!!高杉さんのお話もそのうち書きたいなぁと思っていますのでお楽しみに(o^−^o) (2020年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 一気に全巻読めちゃうくらい面白かったです!晋助様のシーンがしんどすぎてずっと泣いてました…笑次は晋助様落ちの小説も書いて欲しいです! (2020年5月9日 8時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年6月14日 19時