冷たい絶望が 土方side ページ17
『土方さん、』
『…何もかも、やるべきことがすべて終わったら。そうしたら、』
『…約束の埋め合わせを、させてくれませんか?』
と、Aは言った。パトカーに乗り込み、車が走り出してから数分が経過してから、俺を柔らかく優しげな眼差しで見つめては、小さく微笑みながら。車窓からうっすらと差し込んでくる月明かりに薄く照らされたその笑みは、やはり、言葉にうまく言い表せないくらいに綺麗に見えてしまって、俺はまた息を詰まらせたような。胸を強く握られたような感覚を覚えなから、その言葉に頷いた。『わかった、待ってるよ』と。確認しなくても、待ち合わせる場所は分かっていた。だから、それからはお互い何も言わなかった。静かに車に揺られて、俺はAがちゃんと隣に居るということを確認するように、時折横目でAを見据えては、安堵していたりした。
そんなこんなで、俺は屯所の廊下を歩いていた。鬼兵隊の船に殴り込んでから翌日の夜。春になってきたけれど、まだ夜風は冷たさを帯びており、そんな風が縁側を吹き抜けては俺の頬を刺していく。前髪が揺れる。一晩入院して安静にしていたとはいえ、まだ傷は痛む。何かの拍子にズキリと鋭い痛みが不意打ちのように襲ってくるし、これからまた斬り合いを行いましょうと言われてしまったら少々厳しいものがあるだろう。そんな酷いことをする者が現れないことを切に祈っておく。
ゆっくり、特に急ぐこともなく、夜の静かな闇に包まれた廊下を進んでいく。縁側からは月が見える。昨日に引き続きそれは満月で、何処も欠けることなく堂々とそこに浮かんでいた。白んだ光は、今晩も平等に、何処にも誰の元にも真っ直ぐな輝きを届けていた。
月から視線を前に向けて、歩き続ける。もうすぐ、待ち合わせの場所に辿り着く。なんだか無意識に足を進める速度が上がっているような気がした。
…ふと思う。もし、そこにAが居なかったら。どれだけ待っていても、あの日のようにAが来なかったら、どうしようか、なんてことを。そんなことはないと分かっていても、どうしても不安になってしまう。きっと、自分で思っているよりも、あの夜のことか俺の中で残り続けているのだろう。信じていたものに呆気なく裏切られたような、そんな冷たい絶望が、俺の中に焼き付いてしまっているのだろう。
角を曲がる。その先に待ち合わせた場所がある。心臓が音をたて始める。
けれど、まるで俺のそんな不安を溶かすように。
「あ、」
Aは縁側に腰かけていた。
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Karin(プロフ) - この作品が好きすぎてもう4回ぐらい読み返してます。とっても面白くて、感動的で、大好きな作品です!銀魂のedにも使われていた桜音という曲を聴いた時に、この作品の高杉と主人公のことみたいだなぁと感じました。高杉と恋仲だった頃の話も見てみたくなりました笑 (8月4日 19時) (レス) id: 9e7f4b97d1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ありがとうございます!こんなご時世ですので暇をもて余すこともあるかと思いますが、私の作品なんかで良ければ読んでやってください!! (2020年5月9日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - ピピコさん» 嬉しいです!楽しみに待ってます(o^^o)その間ピピコさんの小説何度も読み返しますね笑 (2020年5月9日 21時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ミウラさん!ありがとうございます…!!最後まで読んでくださり感謝です…!!高杉さんが出てくるシーンは本当に難しかったです…自分でも書いててしんどかった…!!高杉さんのお話もそのうち書きたいなぁと思っていますのでお楽しみに(o^−^o) (2020年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 一気に全巻読めちゃうくらい面白かったです!晋助様のシーンがしんどすぎてずっと泣いてました…笑次は晋助様落ちの小説も書いて欲しいです! (2020年5月9日 8時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年6月14日 19時