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その景色は ページ14




…痛む身体を引きずるようにしてパトカーに乗り込んでから、車は発進した。ずっと船の中に隔離されていたから、こうして車に揺られることも久し振りで、微かなその揺れがなんだか心地がよくて、眠気が少しずつ出てきたようだ。もうクタクタで、パトカーの座席に腰を下ろしたら完全に気が抜けてしまったみたいで、もう一歩も歩けそうになかった。恐らくは多少の運動不足もあったのだろう。だって、一週間も船の中に滞在していて、外には出られないし大した運動も出来なかったのだから。暇を持て余して腹筋をしてみたり腕立てをしてみたり、スクワットだってしていたのだけれど、それでもまだまだ動き足りなかったようだ。まぁ、当然だろう。通常だったら稽古やら見回りやら何やらとこなしていたのに、それらが唐突になくなったのだから。

…それなりに呑気にのんびりとしてしまっていたし、仕事に復帰したら暫くはしんどいことになるだろうなぁ、なんてことをぼんやりと考えながら、私は窓の外を眺めていた。漁港付近の景色が流れていく。鬼兵隊の船から、どんどん遠ざかっていく。あまり見慣れない場所だ。真選組が任せれている地域ではないのだろう。見慣れない景色を眺めるのは、退屈しない。


…座席の背もたれに身体を預けて、力を抜いた状態でそうしていれば、不意に、あるものが目に入った。


「……あ」


…小さく声が漏れた。月明かりが白く夜を照らしていて、濃紺色のそんな夜空に、船が飛んでいるのが見えた。それはまるで月に向かっていくように、上空へと上昇していく。


…鬼兵隊の船だった。

船を出したのだ。これからあの船は何処かの星に行って、春雨と一緒に星崩しとやらに出向くのだろう。ゆっくりと、私がさっきまで居たはずの船が、飛んでいっては小さくなっていった。窓に右手をついて、それを見据えていた。

その景色は、まるで、映画のワンシーンのように劇的だった。


「…A、」


と、隣からそんな声が聞こえてきて、私は意識をそちらに向けた。視線をずらせば、そこには土方さんが座っていて、少し心配そうな目をこちらを見ていた。


「…大丈夫か」

「…えぇ、大丈夫ですよ。……全身が痛ったいですけど」


身体はあまり大丈夫ではない。これから私達は、このまま病院へと直行することになっている。小太郎と辰馬は自分達で帰っていき、銀時達万事屋三人は、ザキが運転するパトカーで帰るらしい。病院に行くほどの怪我じゃねーんだよ、だそうだ。


けれど、土方さんの『大丈夫か』が、そんなことを意味することではないことは、分かっていた。

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設定タグ:銀魂 , 土方十四郎 , 真選組、攘夷   
作品ジャンル:アニメ
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Karin(プロフ) - この作品が好きすぎてもう4回ぐらい読み返してます。とっても面白くて、感動的で、大好きな作品です!銀魂のedにも使われていた桜音という曲を聴いた時に、この作品の高杉と主人公のことみたいだなぁと感じました。高杉と恋仲だった頃の話も見てみたくなりました笑 (8月4日 19時) (レス) id: 9e7f4b97d1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ありがとうございます!こんなご時世ですので暇をもて余すこともあるかと思いますが、私の作品なんかで良ければ読んでやってください!! (2020年5月9日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - ピピコさん» 嬉しいです!楽しみに待ってます(o^^o)その間ピピコさんの小説何度も読み返しますね笑 (2020年5月9日 21時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ミウラさん!ありがとうございます…!!最後まで読んでくださり感謝です…!!高杉さんが出てくるシーンは本当に難しかったです…自分でも書いててしんどかった…!!高杉さんのお話もそのうち書きたいなぁと思っていますのでお楽しみに(o^−^o) (2020年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 一気に全巻読めちゃうくらい面白かったです!晋助様のシーンがしんどすぎてずっと泣いてました…笑次は晋助様落ちの小説も書いて欲しいです! (2020年5月9日 8時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/  
作成日時:2018年6月14日 19時

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