どうか 高杉side ページ11
『…ありがとう、私を、一人にさせないでくれて』
と、Aは言った。俺を涙に濡れた目で真っ直ぐに見つめて、涙の雫を混ぜて作ったような、湿った声で。月明かりに照らされたAの泣き顔を、俺はきっと忘れられないだろう。慈悲に満ち溢れたような綺麗な表情を。泣きながら笑っていたあの表情を。歪な唇の形を。俺は、忘れることはないだろう。そして、その言葉も。
『…ごめん晋助。でも、ありがとう』
『本当に本当に、ありがとう』
『ありがとう、晋助』
俺に、そう言ったのだ。『ありがとう』と言ったのだ。何度も何度も。苦しそうに声を震わせながら。何かに押し潰されそうになりながら、きっと酷く傷付きながら、それでも。
謝りながら、泣きながら、何度もありがとうを繰り返すAを、俺は抱き締めた。馬鹿みたいに真っ直ぐで、馬鹿みたいに優しいアイツを、夢中で抱き締めた。Aの身体はやはり小さくて、柔らかくて暖かかった。10年前と変わらず。それよりも昔から変わらず、その体温は俺を落ち着けた。
…本当に、馬鹿だと思った。何を言っているんだと思った。俺はAのすべてを奪おうとしたのに。Aが進もうとする道を壊そうとして、何度も心ない言葉で傷付けてきたのに。それなのに、何故俺に『ありがとう』なんて言葉を告げるのか。訳が分からなかった。俺にアイツが、ありがとうを告げる理由なんて、何もありはしないのに。それなのにアイツは、ありがとうを繰り返していた。
訳が分からなかった。けれど、本当は、分かっていた。
…俺は、取り返しのつかないことをした。何度も傷付けて、何度も泣かせて、何度も苦しませた。けれど、Aは、そのどれもを、許そうとしていたのだろう。
俺が居たから、俺のことを追い掛けていたから、出会えたものがあった。それらに出会わせてくれて、ありがとう。そう、Aは言ったのだ。その言葉を口にして、自分自身を傷付けながら。それでも、俺を許そうとした。
こんな馬鹿なことをして。悲しませたくないと望んでおきながら、俺が一番Aを傷付けて。俺はこれから先、自分を責め続けるだろう。自分を呪い続けるだろう。けれどAは、そんなことはしなくていいのだと、そう俺に伝えてくれたのだ。
赤坂A。
本当に、馬鹿みたいに真っ直ぐで、馬鹿みたいに優しい奴だった。
──どうか、あの真っ直ぐで純粋で、優しい奴の笑顔が、護られますように。
まるで、月に祈るような心持ちで、俺はそんなことを思っては、そんな感傷に浸った自分がおかしくて、小さく笑った。
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Karin(プロフ) - この作品が好きすぎてもう4回ぐらい読み返してます。とっても面白くて、感動的で、大好きな作品です！銀魂のedにも使われていた桜音という曲を聴いた時に、この作品の高杉と主人公のことみたいだなぁと感じました。高杉と恋仲だった頃の話も見てみたくなりました笑 (8月4日 19時) (
レス) id: 9e7f4b97d1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ありがとうございます！こんなご時世ですので暇をもて余すこともあるかと思いますが、私の作品なんかで良ければ読んでやってください！！ (2020年5月9日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - ピピコさん» 嬉しいです！楽しみに待ってます(o^^o)その間ピピコさんの小説何度も読み返しますね笑 (2020年5月9日 21時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ミウラさん！ありがとうございます…！！最後まで読んでくださり感謝です…！！高杉さんが出てくるシーンは本当に難しかったです…自分でも書いててしんどかった…！！高杉さんのお話もそのうち書きたいなぁと思っていますのでお楽しみに(o^−^o) (2020年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 一気に全巻読めちゃうくらい面白かったです！晋助様のシーンがしんどすぎてずっと泣いてました…笑次は晋助様落ちの小説も書いて欲しいです！ (2020年5月9日 8時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ピピコ
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時：2018年6月14日 19時
