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救いであり続けた 高杉side ページ8

Aが俺の目の前から居なくなってから。甲板に俺一人だけが残されてから、俺はなんとなく、物静かに夜空に浮かんでいる月をまた眺めていた。その光は10年前にも、さっきと何も変わることなく白く気高く輝きを放っていた。あの月は、実はただ砂だらけの場所で、本当はその物体だけではこうして輝くこともできないのだ。けれど、こんな美しい光を放っているのを見て、誰がそれを信じられるというのだろう。何処か、ここから遠く離れた遠い場所から、月という場所とはまったく無関係なこの場所まで真っ直ぐな光を放つその月を見ていると、いつもそんなことを考える。そしてそれと同時に、月を見上げながら思い返すのはいつだって、Aのことだった。

…月明かりは、いつかの記憶を思い起こす。それは綺麗で何の淀みもない記憶もあれば、憎しみや恨みが溢れ返るような血生臭い記憶もある。その気高く美しい光に照らされていても尚、それでも汚れた記憶が洗われるわけではないのだ。汚れたものは、汚れたまま。その記憶を甦らせては、俺の身体の中にいる得たいの知れないナニカが暴れまわった。けれど、Aのことを思い出すと、不思議と落ち着いていくのだ。


…月明かりの下で、赤いリボンを結んだAは幸せそうに笑っていて、その微笑みが、いつだって俺の救いであり続けたのだ。そして、その微笑みが、今でも変わらずにあったことを知ることができて、良かったと心から思えた。


その笑みを向けられるのが、俺ではなかったとしても。Aが笑っているのならそれでいいと思える。


「本当に良かったのでござるか?」


と。冷たさの残る風が長い前髪をさらっていて、眩しいくらいの月明かりに目を細めて少しだけ口角を上げていれば、後方よりそんな声が聞こえてきた。その存在にはずっと気付いていたが、特に気にしていなかった。


「紅の舞姫は行ってしまったでござるよ。あれが欲しかったんじゃなかったのか?」


淡々と、何とも思っていない風に。けれどもうその問いの答えをソイツは知っているように万斎は言いながら、俺に煙管を差し出した。先程、甲板の床に落としたものを拾い上げたのだろう。それを受けとり、俺は小さく笑いを漏らした。いつも通りの、何もかもを嘲笑うような笑い声。


「そうだなァ。…じゃなきゃ、こんな馬鹿騒ぎ起こさねェよ」


…欲しくて欲しくて、堪らなかった。傍に置きたくて。傍に居てほしくて。傍に居たくて堪らない。その気持ちは今でも、何処も欠けることなく俺の中にあった。

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設定タグ:銀魂 , 土方十四郎 , 真選組、攘夷   
作品ジャンル:アニメ
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Karin(プロフ) - この作品が好きすぎてもう4回ぐらい読み返してます。とっても面白くて、感動的で、大好きな作品です!銀魂のedにも使われていた桜音という曲を聴いた時に、この作品の高杉と主人公のことみたいだなぁと感じました。高杉と恋仲だった頃の話も見てみたくなりました笑 (8月4日 19時) (レス) id: 9e7f4b97d1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ありがとうございます!こんなご時世ですので暇をもて余すこともあるかと思いますが、私の作品なんかで良ければ読んでやってください!! (2020年5月9日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - ピピコさん» 嬉しいです!楽しみに待ってます(o^^o)その間ピピコさんの小説何度も読み返しますね笑 (2020年5月9日 21時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ミウラさん!ありがとうございます…!!最後まで読んでくださり感謝です…!!高杉さんが出てくるシーンは本当に難しかったです…自分でも書いててしんどかった…!!高杉さんのお話もそのうち書きたいなぁと思っていますのでお楽しみに(o^−^o) (2020年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 一気に全巻読めちゃうくらい面白かったです!晋助様のシーンがしんどすぎてずっと泣いてました…笑次は晋助様落ちの小説も書いて欲しいです! (2020年5月9日 8時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/  
作成日時:2018年6月14日 19時

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