【歌い手】表裏一体、難解恋愛事情｡【nqrse】 (ページ16)

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六十五枚目っ！ページ16

舞架 side

あたしには『才能』が欠如していた。

お姉ちゃんはあたしのことを、「ダンスがうまい」だとか「かわいい」なんて褒めるけれど、努力あってこそだった。

あたしはこのまんま、お姉ちゃんやまふくん、なるせちゃんと一緒にご飯を食べに行って良いのかな。

あたしは歌い手じゃない。

お姉ちゃんは、少なくともあたしが二歳になる頃には歌が上手だった。

それが『才能』。

あたしは、小さい時に好きな人がいた。

顔も声も覚えていない、覚えているのはあたしの頭を撫でる手の感触と、言葉だけ。

あたしよりも、お姉ちゃんよりも、年上で、少し子供っぽくて、優しかった。

その人は、歌が上手だった。

あたしはその時、「その人の歌に合わせて踊りたい」だなんて、柄にもないことを思ってしまった。

だってあの人は、あたしのことを理解してくれたから。

何か返せるかなって、思ったんだ。

その人にも好きな人がいた。

優しくて、かわいくて、笑顔の綺麗な女の子。

………あたしの好きだった人をAさん、その人の好きだった人をBさんとしよう。

Aさんとはあたしが小学三年生の時に出会った。

公園の鉄棒で逆上がりの練習をしてたときだったかな。

「逆上がりの練習してるの？僕も逆上がり出来ないんだ～」って。

普通だったらここで怯えるけど、あたしたちの町はみんな友達みたいなところあるから、別に怯えたりはしなかった。

「うん、明日テストだからできないとお友だちに笑われちゃうの」

「そっかー、じゃあ僕も一緒に練習しよっかな！」

嬉しかった。

あたしには口では「友達」って言えても、心では「友達」なんて呼べない子ばかりだったから。

初めて、心の底から声を出して「友達」だと言える人が出来たって。