おもしろワールド２

せこっ・短編短話 ページ42

今日、ちょうど定年退職をむかえた初老の男が

ひとり、駅前の立ち食いそば屋で一杯のそばを食べている。
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エビの天ぷらが一尾のっかった一杯５００円のそばだ。

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男は３０年も前からほぼ毎日昼休みこの店に通っているが、
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一度も店員とは話したことがない。
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当然、話す理由なども特にないのだが、今日
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男は自然に自分と同年齢であろう店主に話しかけていた。
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「おやじ、今日俺退職するんだ。」

「へぇ・・・。そうかい。」
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会話はそれで途切れた。
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ほかに特に話題があるわけでもない。
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男の退職は、今日が店を訪れる最後の

日であることを表していた。
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すると突然、男のどんぶりの上にエビの天ぷらが
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もう一尾乗せられた。
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「おやじ、いいのか。」

「なーに、気にすんなって」
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男は泣きながらそばをたいらげた。
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些細な人の暖かみにふれただけだが涙が止まらなくなった。
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男は退職してからも、この店に通おうと心に決めた。
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男は財布から500円玉を取り出して、

「おやじ、お勘定」
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「800円」
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勝手に請求すんな(笑)

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