憧れと恋は紙一重【夜久衛輔】② (ページ27)

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忙しい感情の波ページ27

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ｷｭｯｷｭｯと鳴る床を蹴る音が何とも心地良く感じる。落ちそうになるボールを何度も何度も拾う。其の行為は何ともしんどいだろう。流れる汗を鬱陶しく思いながらも思考も動きも止め無い。ボールは未だ落ちて居ない。考えるのは唯其れだけだ。

「ああ！また相手のチャンスボールに…！」

『それでも良いんだよ』

「え？」

『どんなに不格好でも綺麗にセッターに返らなかったとしても…、ボールが落ちて居ない。それが事実。』

床に身体を滑らせながら拾う姿を目に焼き付けながら、少し焦って居る芝山くんへ落ち着く様に微笑んだ。

『強いスパイクも速い攻撃も、確かに凄いけど…だからと言って勝てるとは限らないんだよ』

烏野のエースであろう髭の先輩へトスが上がり激しい音を上げながらスパイクが打たれる。其のスパイクは夜久さんの真正面へ流れこんで、其れを腕で受け止める。あんな強い、重苦しそうなスパイクを此処に居る皆より小さい身体で受け止めるなんて、なんて格好良いのだろう。セッターの頭上をも超え、相手コートへ戻って行くボールを見て、悔しそうに顔を歪ます夜久さんに心臓が跳ねる。胸に手を当てながら少し速くなる鼓動を身体全体で感じた。

またダイレクトで打たれたスパイクをもう一度拾い、また相手チームへ戻って行く。そんなボールを目で追いながら少し間の空いた、芝山くんへ向けていた言葉の続きを口にする。

『バレーボールは単純だよね。ボールを…床に落とした方が負けるんだから… 』

研磨くんが繋いだボールは相手コートの床へ落ち、試合終了の音が体育館へ鳴り響いた_____

私達の居るベンチへ近寄って来る皆へタオルを配ろうとすると隣のベンチから翔陽の声が聞こえて、皆で視線を向ける。

「もう1回…！もう1回！やろう！！」

翔陽の言葉に目を丸くさせる者も居れば、疲れを見せる様に顔を引き攣らせる者も居た。了承する監督の言葉を耳に聞き入れながら嬉しそうに瞳を輝かせる翔陽を見て吹き出して笑ってしまう。

『ふっ……ふふ… 』

「なに…怖いよA」

『は-…ひどいなぁもう… 』

急に笑い出した私を目を細めて見る研磨くんにタオルを渡しながら人差し指で目尻に溜まった涙を拭う。

『だってさ…翔陽って、面白いよね…凄く』

「 ……それは分からなくも無い、けど… 」

未だに嬉しそうな翔陽を横目に研磨くんも私の意見に同意する。珍しい。翔陽を見詰める研磨くんに頬が緩んで、少し母性本能が擽られた。

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