憧れと恋は紙一重【夜久衛輔】

早くこの腕で… ページ50

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海と2人になった俺は床に座って準備が終わるのを待つ。そんな俺を見下ろしながらいつもの優しい笑顔を向けた。

「 Aちゃん相手には強引に行くのは結構有りだと思うけどね 」

「 …は…… 」

アドバイスとでも言う様な発言に目を丸くする。山本に呼ばれて海は俺から離れ、そんな海の言葉を脳内でもう一度再生する。" 強引に " と言われても割りと今でも強引寄りな気がするけど " 今以上に？ " 頭の中でそんな事を考えて居ると黒尾に頭を叩かれて不満そうに踵を返し此方側を向くAと目が合った。小さくお辞儀をするAに手招きをする。不思議そうに駆け寄って来ては俺の前で屈むAに少し頬が緩んだ。

『 …や、夜久さん？』

「 んー…？」

『 これはどういう…… 』

Aの頭を撫でながら黙った儘の俺を戸惑った表情で見詰めて来るAにまた小さく心臓が鳴る。先程此の学校に着いて、練習試合の相手と挨拶を交わした時に相手校の何人かがAを見て小さく話をしていたのが俺の耳に届いていた。" 超可愛い子が居る " " 後で連絡先聞こうぜ " 等、Aの事を狙おうとする輩が割りと居た事に焦った。そりゃあ此の容姿で笑顔を見せられたら良いなって思って仕舞う奴が多いと思う。

「 ( 当の本人はそういうのに鈍そうだけどな… ) 」

加えて此の無防備さは心配になる。何も言わ無い俺に唯撫でられ、抵抗もしない。丸いｸﾘｯとした瞳でじっと見詰められながらずっと視線が交わる。俺も気持ちに気付いたのは最近の事で、出会ったのも最近だから此奴の事を何も知ら無い。けど、相手が誰で有ろうが絶対に負け無い。髪を撫でる様に頭から手を離して立ち上がり、何の濁りも汚れも感じ無い綺麗な瞳で見上げて来るAの頭を少し乱雑に撫でた。

「 ちゃんと俺のかっこいーとこ見てろよ 」

其れだけ告げるとAから離れ、集合の列に並びながらこれから始まる試合に向けて気合いを入れ直した。惚れた女が見てるのに格好悪い処なんか見せてたまるか。そんな気持ちで始まった試合はいつも通り、否、其れ以上に、ボールもスパイカーも良く見えて、絶好調で戦う事が出来た。

「 夜久くん、今日特に調子良いね 」

「 おう！なんか体が軽いんだよな！」

休憩の合間で仲間に賞賛されながら試合中に感じて居たAの視線に気分が上がって居た。其の儘俺だけを見て、俺の事だけ考えて、俺の事を好きになれば良い。


君の小さい身体を早く此の腕で抱き締めたい______




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