憧れと恋は紙一重【夜久衛輔】

案外馬鹿なのかもしれない ページ35

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なかなか寝付けなかった所為で起きるのが遅くなってしまった。急いで準備してリビングに行くと鉄兄の姿が無く、未だ寝てるのかと思いながらテーブルに置かれたメモに目が行く。

" 今日の朝練は念のために休め "

そう少し雑な字で書かれたメモの横には私の大好きなフレンチトーストがふんわりラップに包まれて置かれて居た。兄からの優しさをこうやって直に感じると擽られた様なこそばゆい感じがする。朝練に行けないのは不服だけど、鉄兄の言葉を無視して行って仕舞うと、鉄兄だけでは無くて怪我した事を知っている芝山くんや夜久さんに迄心配を掛けて仕舞う。それは避けたかったので仕方無くフレンチトーストを温め直してゆっくり朝食を摂る事にした。

『 む……私より美味しいのむかつく… 』

ふわっとした柔らかいパンを口に含むと優しい甘さと食感にいつも私が作る物より高価な物に感じて悔しかった。足首の痛みはもうほぼ感じ無い。強く踏み付けたらじ-んとするけど大袈裟に動かなければ問題無い。それもこれも手当てしてくれた鉄兄のお陰で有るかと思うと其れもまた悔しい。別に張り合ってる訳じゃ無いけど昔から何でも器用に出来て私とは違う事に憧れた。

『 それは夜久さんも同じなんだよなぁ… 』

私に無いものを持つ夜久さんはレシーブだけじゃ無く、私が思っていた以上に魅力の塊だった。初めて見た綺麗な見惚れて仕舞うレシーブには酷く憧れたけど、後輩への可愛がり方とか優しさ、太陽の様な眩しい笑顔に自分の気持ちに素直に動く表情、目、口、輪郭、おでこ、小柄に見えるのにちゃんとがっしりした筋肉、全てに憧れ、見惚れ、恋焦がれ____

『 ……ん……？ 』

脳内で考えて居た事に疑問が生まれた。恋ってなんだ。憧れ以外の気持ち何て無い。ましてや夜久さんに対して恋してるだなんて烏滸がましい。というか《 恋 》ってどういう気持ちかなんて説明、私には出来無い。ふと顔を上げて時計を見るとそろそろ家を出る時間で少し慌てた。夜久さんの事を考えてるといつも時間が足りない。深く深く考え様とすると余計に。

『 昼休みに研磨くんにでも話聞いてもらお 』

此の儘考えて居ると頭がパンクしてしまいそうだったので助けを求める事にした。絶対嫌な顔されるし、面倒臭がられるけど、今度アップルパイを作ってあげるのを餌に聞いてもらおうと考えた。最後の一口を口に放り込み口内に残る甘い風味を感じながらそれを牛乳で流し込んだ。夜久さんの事を考えてまた溢れ出して来た熱も冷ますように。




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