花束をなげるのが、下手な彼女。 ページ1
ドシャッ。
ふわっと、名前の分からない花の匂いが、した。
「うわっ、やっちゃった‥!」
世界選手権のフリーを終えて、コーチのいるリンクサイドに戻って来た時のことだった。
頭の上に、大きな花束が降ってきたのだ。
思わず上を見上げると、リンクサイドの真上の席、僕のちょうど真上らへんで、女の子が気まずそうな顔をして、こちらを見ていた。
「ごめんなさい‥‥。」
僕と目が合うと、蚊の鳴くような声でそう言った。
あまり、行儀の良くないファンなどは、わざと花束をぶつけて気を引こうとしてくる人もいる。
試合の後にそれをやられると、少なからず、イラッとする。スケート界では、あるあるな話だ。
でも、この子は違うようだ。心底申し訳なさそうににしている。横に座っているお友達らしき人が、
「ミコ〜‥‥。気を付けろってあんだけ言ったじゃん‥‥。あんた、ほんっと運動神経悪いだから。」
などと言っているのを聞いて、なおさらそう思った。
彼女は、小言を言う友達の方には向かず、困ったような顔で、僕をじっと見つめている。
「大丈夫ですよ。ありがとうございます。」
僕は、彼女にそう言って、落ちた花束を拾って、軽く振ってみせた。
彼女はホッとしたように、ニッコリ笑った。
ドキッとした。
でも、そんな僕をよそに、さっきまでの緊張ぶりはどこへやら、彼女は隣の友達としゃべり始めた。もう、僕のことは見ていない。
「‥‥んだょ。」
「ん?何だ一希。」
「あいや、なんでもないです。」
コーチに心の声を聞かれていた。
もう一度、チラッと上の方を見上げる。
「一希くん凄かったねぇ!これは、自己最高得点になるんやない?」
と友達と話している。
誉められて嬉しい。だけど、他の人はみんな僕のことを見ているのに、彼女だけは見ていない。
僕のことを夢中になって話しているのに、僕本人のことは見ようともしない、という奇妙なギャップに、僕はなんだかモヤモヤした。
それから、キス&クライに座って、得点を見て、コーチと喜んで、バックヤードに戻る頃には、彼女のことは忘れていた。
世界選手権だ。
そんな小さなことは、忘れさせられる場所だ。
モヤモヤは、今日の反省と次の試合のことと、身体中を駆け巡って、いまだおさまらない、アドレナリンにかきけされていった。
その時の僕は、2日後には、そのモヤモヤが再発することを、まだ知らずにいる。
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サクラ - はらさん» ご指摘ありがとうございます!!助かりました(>_<) (2018年5月25日 0時) (レス) id: ebff37a161 (このIDを非表示/違反報告)
はら - オリジナルフラグをちゃんと外して下さい (2018年5月24日 21時) (レス) id: 6df54d9be3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サクラ | 作成日時:2018年5月24日 21時