【オリオンの刻印】間違えて日本代表に選ばれちゃった系女子、世界を相手に奮闘する。

その２３：これは好青年だわ ページ25

☆



「ほっかほか……ってぐえッ」

「うわっ」



あいも変わらず貸切状態の風呂から上がったほたるは、風呂場から駆け足で出てくるなり、早々に道行く誰かと正面からぶつかってしまった。


その反動で、間抜けな声を出しながらどさりと尻餅をつくほたる。

思わず「いってえ」と砕けた反応を見せると、ぶつかってしまった相手は「えっ」と少し驚いたような声を零してから、そっとほたるに片手を差し出した。


そして、その相手はというと──



「すまない！ 大丈夫か、六連星」



蒼き疾風こと、イナズマジャパンのDF・風丸一郎太。ミントグリーンの長い髪が特徴的な彼は、申し訳なさそうに眉を顰めながらほたるへ手を差し伸べている。



「ご、ごめん、風丸くん！ 完全に私の不注意だった」

「いや、オレがぼーっとしてたのが悪いんだ。キミのせいじゃないよ」



差し伸べられた手を借りて立ち上がりながら、ほたるは風丸とそんな会話を交わす。

この場合悪いのはどう考えても周りを見ずに駆け出したほたるだというのに、申し訳なさそうに手を合わせる風丸のその姿は、誰がどう見てもいかにも「いい人」な雰囲気を醸し出していた。



「氷浦くんに次ぐ好青年だ……」

「え？」

「あ、いや、なんでも！ 優しいんだなーと思って、あはは」



ほたるにしては珍しく素直にそうモノを言うと、風丸は照れたように頰をかきながら「よ、よせよ」と謙遜する。

それはまさに、風丸に対するほたるの認識が完全に「めっちゃいい人」になった瞬間だった。



「あと、ほたるでいいよ。六連星って結構言いにくいし」

「そうか？ 別に気にしないんだけどな……ええと、ほたる」

「うん、やっぱそっちの方がしっくりくるよ！」



基本的に今までほたるのことを名字で呼ぶ者はあまりいなかった……というか、そもそもチームメイトに名前を呼ばれたことすらロクになかったが、ほたる的にも呼ばれるならファーストネームの方が好ましいようだ。



「ほんとごめん！ もしこれでプレーに支障が出るようなことがあったら、遠慮なく監督に言いつけてくれていいから！」

「え？ あ、ちょ、おい！」



それだけ言うと、ほたるは風丸に背を向けたまま一目散に自室の方へと走っていっていく。

風丸の引き止めようとする声も虚しく、ほたるは下ろしたままの髪を揺らしながら、足早にその場から姿を消してしまった。






「(……意外と普通だった)」



風丸は一人廊下の中央に立ち尽くしながら、去りゆくほたるの後ろ姿を思い浮かべそんなことを考えたのだった。

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