モラトリアム・ホリック・ホリック

「怒った？」「怒った」 ページ1

「いやーマジで楽しかった！同期めちゃめちゃ面白いんだ、バカばっかりだけど！ふっかとか、仲良くなれそうな気がするなぁ。あ、別にふっかがバカって言いたいわけじゃないから、ふっかに変なこと言わないでよね」

こないだ久々にサークルの仲間たちと派手に遊んだら、やっぱり楽しかったから。

今日になってもなんとなくその余韻が抜けないもんで、あたしは上機嫌だった。

隣を歩く翔太は「へぇ」とか「ふん」とか興味なさげな反応だけど、無視せず聞いてくれてるあたりが優しい。

「それでそいつめちゃくちゃ酔っ払ってさ、高校の時の卒業アルバム持ち出して来て、それ使っ……、」

興味なさげなのには気づいてたけど。

でも別に、普段のちょっと冷めた感じと、おんなじだと思ってた。

渡「あのさぁ」

あたしの前に回り込むみたいにして立ちふさがった翔太。見上げたら、明らかに不機嫌な顔をしてる。

「うっ」

翔太があたしの両頬を、右手で易々鷲掴みにする。

痛い。痛いし喋れない。

渡「お前なぁ」

なに、ごめん。楽しかったからって、あんま聞きたくない話したかも。

でも、喋れないから謝れない。

代わりに眉毛を限界まで下げて、申し訳ないですという意思表示をしてみる。

渡「……はぁ」

翔太はやれやれという感じでため息をついて、あたしの頬を解放した。

「ごめん……怒った？」

渡「怒った」

怒っても、謝ったら多くは言ってこない、あっさりしたところが、翔太の優しいところ。

「……じゃお詫びに翔太のこと褒めながら帰ることにする！まず声が素敵、意外と気配り上手、笑顔がかわいい、美容に……、」

渡「やめろやめろ！なんだお前」

「ええ？ダメ？嬉しくない？」

渡「嬉しくない。めっちゃキスして黙らせてやろうかっ」

ジロリと睨みながら、そんなお茶目な冗談飛ばしてきた。

「なにそれ、かわいい！」

思わず目を輝かせた。

渡「………ふはっ」

そんなあたしを見て翔太が吹き出すから、あたしも吹き出す。こんな平和な帰り道、好きだなぁ。

って。

油断。

これは油断だった。




「………っ、！」




急に近くなった翔太の匂い。あたしを包む。
驚いて反射的に目をギュッとつぶった。

唇に、翔太のそれが重なる感触。

一瞬あとに見たのは、ニヤリと笑って余裕しゃくしゃくの翔太の顔。

渡「……キスしたけど、黙んなくていーよ」

憎らしいけど可愛い顔でニヤニヤして、足取り軽くあたしの前を行く。

こいつ。やられた。

動揺したのが、悔しい。

前言撤回だ。

「…………かわいくねー！」

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