story54 ページ9
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私は確信していた。
あの沖矢昴さんという男性は、秀一様であると。
何故かと問われても、正直勘としか言いようがない。
けれど、私が間違えるはずがないのだ。
何度も私を救ってくれた、あの方の左手を。
木馬荘の前で、具合いが悪くなりしゃがみこんでいた時、背に触れたあの左手。
不思議と呼吸が楽になった。
そう、秀一様の手に触れられた時の感覚と一緒だった。
きっと何か事情があるのだろう。
死んだふりをしなければならない、事情が。
別に構わないのだ。生きてさえ、いてくれれば。どんな姿だって。
事情を詳しく知りたいとも思わない。
ただ、秀一様が生きているという確証が欲しい。
そうすればきっと、こんな夢も見なくて済む。
(…大丈夫…大丈夫。あれは秀一様じゃない…)
夜中に飛び起きて、胸元をぎゅっと握って荒い呼吸を必死でなだめる。
汗で貼り付いたパジャマが冷えて気持ち悪い。
苦しい。苦しい。苦しい。
燃え盛る車の中に、秀一様が消えていってしまう。
お願い。
やめて。
連れていかないで。
秀一様のために、生きると誓ったのだ。
あの方がいなければ、私は生きる理由を失ってしまう。
いや、実はそんな理由はどっちでもいいのだ。
ただ、無理なのだ。
あの方がいなければ、私はうまく呼吸もできないのだから。
涙で滲む視界が、だんだんと暗くなる。
真っ赤だった脳裏が、黒に塗りつぶされていく。
(…秀一様…)
あのぬくもりが恋しくて、必死で手を伸ばす。
けれど、手は空を切るばかりで。
私の手も、想いも、すべて。
冷たい暗闇の中へ、ゆっくりと落ちていった。
**************
『もしご都合がよろしければ、食事会の買い出しに付き合っていただけないでしょうか?』
悩んだ挙げ句、メールの送信ボタンを押す。
沖矢昴さんという男性が、秀一様である可能性を見出だした自分の勘を信じて。
数分後、彼からメールが返ってきた。
『大丈夫です。ぜひご一緒させてください』
この間、気が急いて恋人にしてくださいとか言ってしまったが、どうやら普通に接してもらえるらしい。
零さんにも、それはもう散々怒られたので、今度は妙なことを言わないように気を付けないと。
時間と場所を約束し、スマホを鞄に終った。
少し心が軽くなって、ほっと息をつく。
ふと壁の時計を見れば、思っていたより時間が過ぎていて慌てて仕度をする。
大切な人達のためにお弁当を二つ持って、私は家を出た。
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ぱぱんだ(プロフ) - カコさん» いつもありがとうございます!最高と言ってもらえて、本当に嬉しいです(*^^*)基本的にハピエン好きなので、読んだあとほっこりしたいじゃないですか(笑)優男の方もぜひ、お願いしますね! (2018年4月9日 21時) (レス) id: 0dfef02039 (このIDを非表示/違反報告)
カコ - いや〜もう最高でした。ぱぱんださんの作品は読後に幸せな気持ちになれて好きです。今回もありがとうございました。これから安室の続編読みま〜す。 (2018年4月9日 20時) (レス) id: 667d573e94 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぱんだ(プロフ) - 智真さん» こちらこそ、読んで下さってありがとうございました(*^^*)楽しんで頂けたようで、とても嬉しいです!これからの執筆の糧にさせていただきますm(__)m (2018年4月9日 18時) (レス) id: 0dfef02039 (このIDを非表示/違反報告)
智真(プロフ) - 完結おめでとうございます!赤井さんイケメンすぎるし、降谷さん優しすぎるし、キュン死しそうに何度もなりました笑 公安メンバーとのやり取りも凄く好きで、とにかく面白かったです!!素敵なお話ありがとうございました(≧∀≦) (2018年4月9日 16時) (レス) id: 809fa61cec (このIDを非表示/違反報告)
ぱぱんだ(プロフ) - みーさん» ありがとうございます(*^^*)楽しみにして下さって、とても嬉しいです!おかげさまで無事に完結できました(*^^*) (2018年4月9日 6時) (レス) id: 0dfef02039 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぱぱんだ | 作成日時:2018年3月2日 11時