殺人鬼と逃走劇

番外編4 不安からの愛を（前編） ページ11

ずっと独りで、寂しい想いをした。

Aと一緒に居ればそんな想いもしなくなったけど……

けど、全然構ってくれない！

俺は最近忙しくて帰ったら直ぐに寝てしまう。

休みの日はAも何処かに行っちゃって、二人で居る事が叶わない。

今もカインって人とずっと話してるし……

スーパーに来たら偶々会って、Aは俺を放っている。

俺にも構って欲しいなぁ……ナイフ向けたらこっちに気を引いてくれるかな……

と、護身用のナイフを懐から取り出そうとした時……

「あ、シンお兄ちゃんだ！」

名前を呼ばれ、声のする方を見ると、女の子が立っていた。

「ユカじゃん」

何時も子供達と遊ぶ時、必ず居る女の子。

公園以外で会うのは初めてかも……

抱き着いて来たユカを抱き上げる。

「シンお兄ちゃん買いもの？」

「そうだよ。ユカはお母さんと来たの？」

俺が聞き返すと、ユカは首が千切れんばかりに振った。

そこにユカのお母さんもやって来た。

「ユカ！あら、シン君。こんにちは」

挨拶を返しながら思った。

俺、君付けで呼ばれる様な歳じゃないんだって事。

不老不死になったのは気紛れだけど、やっぱなぁ……

「でもそうしてユカを抱いてるのを見ると、本当のお父さんに見えるわね」

そう言われ、何かが俺の身体を駆け巡った。

息をするのも忘れるくらい。

そんな別世界へ飛んでいた俺の意識が戻ったきっかけは、ユカの声だった。

「わたし、お父さんじゃなくて彼氏がいい！」

小さい子は何処でそんな言葉を覚えてくるんだろう。

俺は苦笑いを浮かべつつ、流しておいた。

俺の恋人はAだけだし。

Aを見ると、カインさんがAの頭を撫でて、笑顔で応えていた。

俺も見たことない笑顔に、不意に胸が痛んだ。

ねえ、如何して……結婚に応じてくれないのも、ソイツの所為？

段々とあの男に殺意が湧き、殺してやろうかと思ったくらい、憎い。

何でAを独り占めしてるんだよ。それは俺のなのに。

彼奴が居なくなったら、Aは俺に構ってくれるよね？

「……シン？」

何時の間にか俺の傍まで来ていたAの腕を握った。

「帰ろ」

「は？え、シン……！？」

戸惑うAに構わずに家に帰る道を走り歩く。

「待って、シン！どうした、の……」

言葉に詰まったのは、俺が泣いていたからだと思う。

俺自身も何で泣いてるのか分からない。ただ涙が溢れるだけ。

「俺にももっと構ってよ」

そう言うと、何も言わずに頭を撫でてくれた。

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