JW設定メモの短編集 (ページ4)

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愛されない君へ、愛を込めて　１ページ4

重岡side
赤「はぁっ、はぁっ、はっ…」
しくじった。いや、まだ取り返しのつかないほどじゃないけど、しくじった。奴らが俺を追ってくる足音がする。また走り出す。満月も隠れてしまった。足音が聞こえなくなったのを確認して、蔦の生い茂る岩壁に手をついた。
赤「…？これ、建物の壁か…？」
壁に沿って進むと、ドアノブらしき手応えがあった。試しに押してみる。ぎぃ、と重い音をたてて扉が開いた。
長い長い、呆れるほどに長い螺旋階段を登る。さながら『塔の上のラプンツェル』やな。俺はフリン・ライダーか。
やっと終わった螺旋階段の終点には扉があった。開け放つ。
息を忘れた。
扉の先には、部屋があった。簡素なベッドと恐らく浴室へと続く扉。けどそんなのどうでもよかった。大事なのは、大きな窓に腰掛け、月光に照らされた人だった。
サラサラの茶髪。透き通るように白い肌。長いまつげにふちどられた茶色の大きな瞳。整った顔立ちとふっくらとした唇。折れそうに華奢なからだ。
すべてが人形のように美しく、繊細で、儚かった。
俺が人生で見た中で一番綺麗な人。男か女かわからないその人は満月を背負い、俺に微笑みかけた。
黄「どうしたん？この国の子やないやろう？迷ってもうたん？」
耳触りのよい柔らかな声。返す俺の声は、自分でも呆れるほどに上ずっていた。
赤「っ、そうです…あの、ここで何してはるん…？」
んー？とその人は首を傾げて笑う。窓枠に腰掛け、薄汚れたワンピースから露出している白い足を揺らす。
黄「何しとるんやろね、俺。ここに来たのが昔すぎて、忘れてもうた」
赤「…出たいって、思わんの？」
思わず口走った。こんなに綺麗な人なのに、こんな場所で人生を終えるのはあまりに相応しくない。
黄「出たところでなぁ…俺、忌み子だから。穢れてるから。19歳なったら出られるらしいで、ここから」
俺の飯持ってくる人が言うとった、とその人が言う。ちら、と外を見やって、その人は俺に歩み寄ってきた。
黄「…そろそろ行きや。朝になったら人が来る…そしたら君は殺されてまう」
そう言いながら、耳につけていた耳飾りを片方だけ外した。赤い宝石のついたそれを、俺の手に握らせる。
黄「いつか。君が俺を覚えてたら。迎えに来て」
ちゅ、と俺の頬にキスを落とし。その人は俺を扉へと押しやった。

目が覚めた。
久々にあの日の夢を見た。
俺の肩にもたれて、すぅすぅと寝息をたてる淳太。白く折れそうに細い手は俺の服を握っていて、俺を信用してくれていて嬉しくなる。
赤「覚えてたよ。ちゃんとおまえを迎えに行ったで」
記憶の中の淳太に、そう呟いた。