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#004 或る共通の友人-2 ページ6

太宰side

カランと乾いた音を立てて店のベルが鳴り、

客が入ってくる。

「嗚呼、来たのか。」

織田作は開いた扉を振り返りもしない。

其処には小さな黒のシルエットがあった。

『噂をすれば…だねぇ。』

「嗚呼、幹部さん。」

『太宰だよ』

彼女は静かに近付いて来て、私の隣に腰掛けた。

「太宰さん、

織田作さんとはお知り合いなんですか?」

『太宰でいいよ。

それに敬語なんてよしてくれたまえ。

…共通の友人といったところだねぇ。

ところでこんなバーに何しに来たんだい?

未だ酒を嗜む年齢には見えないけれど。』

Aが其れは貴方もでしょう?

と首をかしげる。

そう言われると、反論のしようが無い。

誘われる年齢まで酒を飲む気にはとうてい

なれなかったし、店長がわざわざ用意してくれる

蟹缶以外にこれといって好む食べ物が

ある訳でも無い。自分が此処を訪れるのは、

織田作が居るから。それだけだった。



織田作がひとり たてる氷の乾いた音を

黙って聞いていたAが不意に口を開く。

「味の素下さい。」

「かしこまりました」

そう言うと、マスターは厨房に消えた。

戻ってきたマスターはコトンと机に何かを置く。

料理にしてはやけに 早い。

『なんだい?それ。』

小瓶に入った白い粉を見つめる。

塩にしてはやけに粒が大きかった。

「美味しいの」

『へぇ。これよりも?』

そう言って、私は蟹缶の塔をつついた。

「店長、味の素をもう一つ。」

はいどうぞ。と差し出された白い粉末。

塩でも、砂糖でもなさそうだ。

コレを口に含むのは…。

どうしようか迷っていると、

Aは水の入ったグラスの隣に

二つ並んで置かれていた瓶の片方を掴んで、

中身を半分くらい口内に流し込んだ。

目を少しだけ細めて

その均整な顔に笑みを浮かべる。

Aを見て、害はないと判断した私は

同じようにその粉末を口内へと流し込んだ。

ぶわりと広がる何か。





『……………』







『美味しい…』







『美味しいよ!!織田作!』







バンッと机を叩いて立ち上がる。

「そうか。それは何よりだ。」

そうだ、コレを蟹缶にかければきっと

もっと美味しい。

私は織田作に君も食べてみなよと勧めたが、

彼は首を振った。

彼曰く、これは胡椒や塩のように

何かにふりかけて食べるもので、

彼女や私のように直接食べる人間は

ごく少数らしい。


何がともあれ、

この日から私の数少ない好物の中に

其れが加わった。

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置いときもの(プロフ) - 黒木宙さん» コメント有難うございます!更新頑張りますのでお待ちくださいね!!体調に気を付けます!笑 (2017年7月17日 18時) (レス) id: 001e2135c2 (このIDを非表示/違反報告)
黒木宙(プロフ) - 何時も楽しみにしています!次が待ち遠しいです笑体調には気を付けて頑張ってください! (2017年7月17日 18時) (レス) id: 0545e227ea (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:置いときもの | 作者ホームページ:http://user.nosv.org/p/oitokimono/  
作成日時:2017年6月15日 23時

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