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不幸な少年の噺 ページ42

敦side

孤児院では夕食を抜きにされるものがいつも

その後の食器を洗っていた。

それはいつも僕だった。

大きな桶に張られた水は凍てるように冷たい。


そこに両手を沈め、ナイフが浸かって

いないかと怯えながら食器を手探りで探す。


スポンジも、洗剤も無いので

何度もボロ布で擦らなくてはならず、

皿を一枚洗うのにすら時間がかかる。


無論、その間は肌着一枚で真冬の

冷たい夜風に晒されたままだ。


加えて食器を擦る度に服が動いて、

火かき棒で折 檻されたあとの火傷に擦れて

死ぬほど痛む。



痛みに耐えかねて手を止めた時だーー

視界の端で黒いものが揺れた。

烏…の大きさではない。


孤児院の庭の木に吊された…

というよりも自らを吊るした、人間。
脳が状況に追いつけず反応出来ない。

其れがドサリと落ちたところでやっと

我に返った。

どうやら木に縛り付けた方のロープが

切れたらしい。

むくりと起き上がり、中途半端に首に

かかったままのロープを引きずって庭を

数回往復した後、こちらに向いて歩いて来た。

『!?』

僕は身の危険を感じたが此処を動く訳にも

いかず、身構えるしかなかった。

しかし目当ては僕ではなく、

突き出した孤児院の柱の飾りだったらしい。

ロープをかける場所を探していたのか、

懲りない人だな。と、庭を変質者が

徘徊していることには何の疑問も抱かずに

その人の行動に納得した。

「…チッ」

だが、柱の飾りには背が届かなかったようで、

ロープをかけるのを諦めると、その場に

座り込んだ。


そこでやっと目が合う。

否、合ってしまったと言うべきか。


「やあ、少年。」

にこりとと笑ったのが綺麗な女性で

少し、驚いた。

『あの、だ、誰ですか…』

「うーん…自 殺希望の放浪者?」

『そう。ですか。』

何が『そう。』なのか全くわからないまま

返事をする。

僕が動揺さえしていなければ自 殺を止めただろう。

「少年、君は?」

『中島 敦です。』

「へぇ。敦くん。死にづらそうな名前だねぇ。」

死にづらそうな名前、とは。

「ねぇ、いい死に方知らない?

出来たら今すぐ手軽に出来るやつ」

そんなこと、知る訳が無い。

何言ってるんだ。

それなのに、

僕はこう答えてしまった。




『僕と一緒に…なんてどうです?』




「へぇ。いいね。」

彼女の赤みを帯びた光彩に彩られた瞳孔が

こちらの心を読むかのように

じっと僕を見つめていた。

孤独な少年の噺→←#001『ルパン』



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置いときもの(プロフ) - 黒木宙さん» コメント有難うございます!更新頑張りますのでお待ちくださいね!!体調に気を付けます!笑 (2017年7月17日 18時) (レス) id: 001e2135c2 (このIDを非表示/違反報告)
黒木宙(プロフ) - 何時も楽しみにしています!次が待ち遠しいです笑体調には気を付けて頑張ってください! (2017年7月17日 18時) (レス) id: 0545e227ea (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:置いときもの | 作者ホームページ:http://user.nosv.org/p/oitokimono/  
作成日時:2017年6月15日 23時

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