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噛み合わない会話を重ねていくにつれ、何で此処に来たんだよという顔があからさまになっていくA。しかしそれには百も反論がある──元々来るつもりではなかったのだ。随分と彼女に会わなかったし、たぶんもう会わないだろうと思っていたし。
何より文章のみで会話することに慣れきってしまった──Aがわからないとはいえ、此方はわかっているのだ。それで満足していた。
「──ハズだったんだけどサァ。ちょっと寂しくなっちゃって」
「アンタが? 『寂しい』なんて言葉が一生似合わねぇだろうアンタが?」
「ボロクソに貶すじゃん……。や、だから。終わるんだって──終わらせるんだって」
長いこと会っていなかった友人のような存在に容赦なく突き刺さることを言うAだが、そういう性格なのは知っている──そう仕向けたのは百だ。
重ねて『終わらせる』と言う百の言葉は、相変わらず要領を得ない。元々こういう人間なのは此方も知っている──互いを知っているから、それ以上は言うつもりがない──くどくどと文章を重ね、結局お前は何が言いたいんだと問うと、きょとんとした顔を浮かべて「サァ」と答える人間だ。
「こんなつもりじゃなかったんだ」と犯罪者のようなことを言い始める百をドン引きした目でAが見るが、彼、もしくは彼女は続けざまに話す。
「そう、こんなつもりじゃあなかったんだよ──はた迷惑かもしれないが。そもそも君に出会うつもりもなかったし。此処でまた再会する気もなかった。運命って言やあ聞こえは良いが、結局そりゃあ神ってのがサイコロ振っただけの話だ」
「────」
「謝罪もねぇ、感謝もねぇ、喋りたいことなんてコレだけ生きて来て何もねぇ」
もはやそれはAに話しかける、という体を失っているように見えた。ただ一人で呟き続ける百に、Aは少し躊躇い、そこで躊躇った自分を恥じた。何をしているんだお前は──違うだろうが。
──そこでそうしたら、私は私じゃねえだろうが。
「結局会いに来てくれたんだろ」
「────」
「言いたいことなくても、言いに来てくれたんだろ」
「────」
「うん、それで良いんだ。人生の全部に意味があるワケじゃない。意味のないことを重ねていって、それが初めて『意思』になる。そうだろう」
確かめるように言ったAに、百はほんの少し言葉を失い、それから歪に笑んだ。笑い方がわからない、とでも言いたげだったけれど、それでもさっきの顔よりは。
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なずな - 心臓が1億個ぐらいあってもたりませんでした!!助けてください!!(?) (3月29日 12時) (レス) @page50 id: f22ade9e4c (このIDを非表示/違反報告)
真白 - とても、面白かったです! (2023年1月27日 1時) (レス) @page50 id: 1bd364c53c (このIDを非表示/違反報告)
真白 - 一気読みしてたら、もう夜になってた⁉ (2023年1月27日 1時) (レス) @page50 id: 1bd364c53c (このIDを非表示/違反報告)
廣岡唯殿 - 面白い続きが観たい… (2022年12月12日 10時) (レス) @page50 id: 4e6dbece94 (このIDを非表示/違反報告)
nori(プロフ) - 作者様の話好きすぎる…✨一気読みしちゃいました笑今更ですがお疲れ様です!作者様の作品これからいっぱい見てみようと思います!!! (2022年8月27日 21時) (レス) @page50 id: 415de435f6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2021年1月9日 17時