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「──あ、百さん?」
濡れ羽色の髪を揺らして言った少女に、よう、と片手を上げる人間。外観だけでは男か女か判別がつかず、その相貌もこれと言った特徴はなかった。服装だけは書生服のように見えるが、これもまた珍しいものではない。
百というのは、その人間の偽名らしい。本当の名前は他にもあると言う。わざわざ偽名を名乗ってそれを明かすというのは、少女にとって──Aにとってワケのわからないものであったが、まあ本人が教えたくないのならそれで良いのだろう、と思っている。
「めずらし。どうして此処に?」
「ん−、いやァ。ちょっとサ、終わらそうと思って」
「なにを?」
言いながらAはテキパキと茶の準備をする。百はそれを見て、「ああ、いらない」と言って手を振った。どうせ飲めないし、と小声で付け加えられる。別にAのお茶は飲めないほどマズくはなく、そこそこに自信があったものである。しかしこうやって断られるのもいつものことなので、はあい、と返事をした。
百はまるで自分の屋敷のように、何の迷いもなく家の中を進んでいく。元樹柱、榊原槐の屋敷。現在はまるで療養所のように柱達が入り浸っている場所だ。その縁側に辿り着くと、自然と笑みが零れてくる気がした。
「昔話でもする?」
「スゲー突拍子もないこと言うじゃん……、いや、なに? マジで」
百は拗ねた表情になった。性別不詳年齢不詳の人間がそんなことをしても全く可愛さの欠片もないが。
「することもねーんだよ」と言う百に、えぇ、とあからさまに顔を顰める。それは完全に八つ当たりなのでは、と思ったAだが、確かに百とすることなんてほとんどない。たまにふらっと現れてはまたふらっと何処かに消える。一応定期的に来ているそうなのだが、その姿を見るのは幾歳振りか。
「ていうか、ちょくちょく話もしてるんだぜ。君が知らねーだけで」
「こわ。変身能力でもあったんかよ百さん」
「いや声だけで会話した。いや文字だけ……?」
「さらに怖ェよなにソレ!?」
うーんと唸る百に叫ぶ。何がなんだかわからないが、それは百も同じだったようでポンと手を打ち「この話はやめよう」と言った。なら最初から言うなよ。
そんな文字だけで記憶した覚えはない──と言いたいが、いや、割と文通しているな自分、とAは思う。柱達を筆頭にして後輩達とも筆で会話している。もしかしたらそこに百が紛れて──いないな。まったく。
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なずな - 心臓が1億個ぐらいあってもたりませんでした!!助けてください!!(?) (3月29日 12時) (レス) @page50 id: f22ade9e4c (このIDを非表示/違反報告)
真白 - とても、面白かったです! (2023年1月27日 1時) (レス) @page50 id: 1bd364c53c (このIDを非表示/違反報告)
真白 - 一気読みしてたら、もう夜になってた⁉ (2023年1月27日 1時) (レス) @page50 id: 1bd364c53c (このIDを非表示/違反報告)
廣岡唯殿 - 面白い続きが観たい… (2022年12月12日 10時) (レス) @page50 id: 4e6dbece94 (このIDを非表示/違反報告)
nori(プロフ) - 作者様の話好きすぎる…✨一気読みしちゃいました笑今更ですがお疲れ様です!作者様の作品これからいっぱい見てみようと思います!!! (2022年8月27日 21時) (レス) @page50 id: 415de435f6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2021年1月9日 17時