挨拶 ページ46
親しそうに話す、明らかに年上の男は篠原の荷物を持っている。
いかにも大人の男性、て感じの服装に立ち振る舞い。
…赤葦がいつか言ってた”面倒くさい家”。
なんでかその言葉が脳裏にぽかんと、存在感を放ちながら浮かんだ。
婚約者…恋人、とか…
呼べば聞こえる距離にいるのに、突然篠原がとてつもなく遠いところにいるような錯覚に陥った。
物理的にも、精神的にも。
でもこのチャンスを逃せば…次話せるのはいつになるか、だ。
黒尾「篠原、そちらは？」
彼女の斜め後ろに立つその男は俺を見てお辞儀をした。
洗礼されたその動きは男の俺でも綺麗だと思う。
皐月「皐月と申します。Aさんの…まぁなんです、家庭教師みたいなものです。」
一瞬悩んだすえに皐月と名乗った男は家庭教師だと言った。
…いえない事情でもあるのかは知らないが、なんで一瞬迷ったのだろうか。
『迎えにきてくれたの、皐月さん。
じゃあ、クロくん。一週間ありがとう。
また是非いつか合宿か、大会かで会おうね。』
わざわざ迎えにきたとなると、ただの家庭教師ではないことは確かだ。
悪い虫がついていないか確かめにきた恋人と考えるのが妥当か…？
黒尾「おう、こちらこそ一週間サポートサンキューな。
篠原のおかげで色々とスムーズだったし、勉強になった。」
篠原に礼を言っても特に目線を送ることも、口を挟むこともない”皐月さん”。
…大人の余裕ってやつ？
でも流石に連絡先交換は変な目で見られるかな…
黒尾「あ、そうだよければ連絡先交換しよーぜ
東京にいて暇だったら赤葦とか木兎とか誘ってどっか行こ。」
赤葦が言っていた、篠原は気分転換のために東京に来ている、と言う言葉を思い出して口実を作ってみる。
ついでに次に出かける約束も取り付けてみる。実現するかしないかはおいといて。
『うん、是非』
彼女はなぜか少し焦った様子でそう言った。
無事トークアプリに篠原の名前が現れたのを確認して、もう一度、またな、と挨拶をした。
監督とマネ達にはもうすでに挨拶をしたらしく、他の合宿に来ている奴らには一斉にまたねと手を振って声をかけている。
選手の中で、赤葦を除いてだけど、ここまで仲良いのは俺くらい。
そう思っただけで、皐月さんのことなんてどうでも良くなるほどに俺は嬉しくて…
単純だな、なんて思いながらまた研磨が座っている木陰の方に足をむけた。
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作者名：あやにゃん | 作成日時：2019年4月16日 0時
