ここだけの話 ページ34
食堂で晩御飯を食べる時も、黒尾さんが明るく振舞っていてもどこか空回りな感じがして、でもその好意を無下にはできなくてみんなで愛想笑いを浮かべているこの状況が僕は、ありがたい気持ちもなくはないけど、心底気に食わなかった。
まぁ、そんなこと言えるような立場にないんだけど。
少し立ってから赤葦さんが暖簾をくぐって食堂に入ってくる。
後ろにはゆっくりと歩く篠原先輩はへらりと笑って席に着いた。
顔色はお世辞にもいいとはいえない。
『ごめんねーさっきは…
やっぱり現役でバレーしてた頃とは違うよねぇ』
苦笑いする彼女からは後悔の様なものと、哀しみに近い感情が読み取れた。
スポーツドリンクとおにぎりを一つ食べた彼女は小さくため息を吐いて椅子にもたれるように深く座る。
黒尾「でも無理はすんなよー
風呂、残りは俺達だけだと思うし先行っていーよ。なんなら外に赤葦配置しとくし。」
そうだ、マネージャーのお風呂の時間は一応終わっているのか。
残りは誰が入っていないのかをさっき部屋に戻った時に確認したらしい黒尾さんはやっぱり主将だなと思わせる安定感と気の配り方。
『悪いけどそうさせてもらうね…すぐ出るから。』
申し訳なさそうに彼女はそういった。
ーーーーーー
ー澤村大地視点ー
赤葦くんはつきそいで浴場の方に。
月島と日向、灰羽は3人で部屋の方に戻っていった。
残ったのは木兎と黒尾と俺の主将3人だ。
黒尾「なんで木兎静かなんだよ」
ここ数日間わりと騒がしいところしか見てこなかった彼は確かにこの1時間くらい口を開いていない。
木兎「いやー…うん
ほら、」
歯切れの悪い喋り方をする彼はいつになく慎重に言葉を選ぶ。
木兎「篠原、体あんまり強くないんだよね…家系的に低血圧の人が多いらしいのと、肺炎で色々拗らせたらしくて」
そうなのか、と俺と黒尾は頷いた。
確かに人の健康状態を口にするのはどうかと迷うかもしれないが、それだけでこんなに言葉を慎重に選ぶだろうか?
同じく疑問に思ったらしい黒尾が木兎に問いただす。
木兎「…ここだけの話な…
そもそも赤葦に割と仲良い従兄弟がいるって知ったのここ最近で…篠原が誘拐されて東京まで連れられてきたことがきっかけなんだよ。」
唐突にテレビのニュースでしか聞いたことがない”誘拐”という単語に驚く。
そうか。青葉城西に通う”篠原”。
確かに宮城では有名な苗字だ。
なんで気づかなかったんだろう?
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作者名:あやにゃん | 作成日時:2019年4月16日 0時