疲れ ページ33
ー月島蛍視点ー
ブロックを飛んだはいいものの、木兎さんのスパイクは重くて叩き落とすどころか弾かれてしまう。
落ちただろうかと諦める前に、後ろから頼もしい声が聞こえてきて、僕が呼ばれる。
綺麗に頭上に帰ってきたボールを、高い弧を描かせるように上に押し上げた。
後衛にいる彼女はアタックラインで踏み切り、高い位置でスパイク…とはいかなかった。
叩かれたボールはギリギリのところで白帯に阻まれ、スパイカー自身はステンと尻餅をついている。
『いたた…』
前に立っていた僕は彼女に手を差し出し、引き上げようとするも、途中で力が抜けて倒れてくる。
これでも部活はしているし、細いかもしれないけれどそれなりに体力も筋力もあると思っていたのだが意外と人間というのは重いらしく、思わぬ事態に一歩後ろに下がってしまう。
月島「え、大丈夫デスカ…」
赤葦「A！」
灰羽「Aさん？」
へたり込む彼女は立っていられないようで、ゆっくりと床に座らせる。
朝早くから起きていて、普段はマネ業をしていてこんなに体を激しく動かさないからだろうか。
コートの向こう側から焦った様子の赤葦さんがくる。
そういえば従兄弟同士だったな…
虚ろな目で光を避けるように俯く彼女を見て背中に何かがぞくりと走った気がした。
全てを諦めたような、闇のような目…
朝、小学生の時と変わりないと笑っていた彼女と本当に同一人物かを疑いたくなる。
赤葦「無理しすぎ。
ごめんね月島。日向、俺のスポドリとってくれる？」
パタパタと軽い音を響かせて日向が入り口付近に置いてあるボトルを持ってくる。
『ごめん…調子乗った…』
澤村「暑いからなぁ…ほら、みんなもついでに飲み物飲んどけよー」
赤葦さんの肩に額を乗っけるように座る彼女を横目に僕もドリンクを一口飲んだ。
確かに暑い中僕たちを同じくらい動いたんだ。立ちくらむのも無理はないかもしれない…
キャプテンの指示で僕たちはかたずけを始める。
モップをかけて、ボールを拭いて…どうせ晩御飯が終わる時間が迫ってきているのだから終わらなければいけなかった。でも、こういう終わり方は少し気まずいというか…
赤葦「すんません、Aを部屋に連れてきますね。」
疲れがどっと出てきたのか未だほとんど無言で、息の荒い彼女は赤葦さんに手を引かれて去っていく。
心配して掃除の手を止める日向の下痢ツボを押して、僕は平静を装った。
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作者名：あやにゃん | 作成日時：2019年4月16日 0時
