【あんスタ】演劇科のアイドル

20話 翠の思い ページ21

高峯side





とうとうライブが始まった。

入学してから何回か経験しているのに未だに慣れず、少しうろ覚えのセリフをやっつけに言う。


「それじゃあまずは一曲目！！」



聞きなれた先輩の声と曲のイントロが耳に入る。



自分のパートを歌いながら観客席を見渡す。


「(A……)」


自分の幼馴染を無意識の内に探せば、明るい茶色の髪をした恐ろしいほど整った顔を見つける。


「(いた！)」



嬉しさが込み上げ咄嗟にAに手を振れば、彼は振り返そうとしてくれたのか手を控え目に上げるが、周りの歓声に驚いたのかその手を下げてしまった。



「(違う……俺はAに手を振ったんだ。)」


そんなことステージ場にいる俺が客である彼に伝えることが出来る筈もなく、歯痒い気持ちになりながらも曲に集中することにした。




……………………………





ライブが終わり、汗をタオルで拭いていると忍君がスマホが鳴っていたことを教えてくれた。


画面を見ればAからのメッセージで、内容は差し入れについてだった。

場所を伝えて急いで楽屋から外に出れば紙袋を持ったAが此方に向かってきていた。




我慢できず名前を呼びながら駆け寄れば彼は約束通りゆるキャラとコラボしたお菓子を買ってきてくれていた。


嬉しさが込み上げるがあることに気づく。




「A……このジュース…」

「あぁ、流星隊って確か五人だよね？」

「わざわざ皆の分まで買ったの？」

「うん。迷惑だった？」

「いや……そんなことないけど…」




自分だけではない。心にもやっとしたものを感じるがそれは一瞬にして覚める。



「(あれ？俺確か何も言わずに楽屋を飛び出した。ヤバい……追っ手が来る！)」



「こんなのんびりしている場合じゃなかった……Aは逃げて！」

「えっ、何から？」

「おっ！お前は高峯の幼馴染の橘か！」



時すでに遅し。よりにもよって守沢先輩が来るなんて………



あぁ、…鬱だ。死にたい……

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