聞かなきゃ良かった 沖田side ページ29
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病院から屯所までの道のりを、特に急ぐこともなくゆっくりと歩く。それは俺が意図してそうしているのだけれど、Aはそれに気付いているのかいないのか、時折何てことのない会話をしつつ俺の隣を歩いている。きっとコイツはまったく気付いていないのだろう。俺が少しでもコイツを独占していたいがために無駄にゆっくり歩を進めているのだということに。迎えの車を断ったのもそのためだ。
俺と付き合い出してそれなりに時間は経つけれど、ズル賢くて悪意まみれで策士な俺とは対照的に、Aは素直で純粋で真っ直ぐだ。俺が明らかに何かを企んでいるだろうことが見え見えで、それを俺はまるで隠すつもりがない時は流石にコイツも俺を疑うけれど、基本的にAは俺を信頼してくれているようだ。
そんなコイツに実は俺はわざとゆっくり歩いてるんだってことを教えたら、どんな顔をするだろう。きっと「は?何でですか」みたいな顔をするのだろう。「お前と出来るだけ長い間手を繋いでいたいから」と更に教えたら、今度は顔を真っ赤にするんだろうな。
そんなことを考えながらに歩いていくと、いつの間にか屯所はもうすぐ近くになっていて。意外と早いもんだなと俺は思った。
「あーあ、もうすぐムサイ奴等んとこに戻るのか〜」
「またそういうこと言う。皆さんがどれだけ貴方のことを心配していたか、見せてあげたいですよ」
「へェ、例えば?」
「神山さんなんて毎日のようにすすり泣いてました」
「聞かなきゃ良かった」
何故数多く居る隊士の中から神山が出てくるのだろう。それだけAにとって印象的だったのかもしれないが、正直アイツの顔は思い出したくなかった。げんなりしすぎて顔が歪む。
「皆待ってたんですよ、沖田隊長の帰りを」
「お前も?」
「勿論です」
これまた可愛いことを言ってくれるもんだ。
「ついでにお仕事も待ってますよ」
と、思ってにやけていたのにその一言で気分は地の底にめり込んだ。
「…帰りたくねェ」
「駄々をこねないでください」
さっき退院してきたばかりなのに随分とスパルタじゃないだろうか。病み上がりなんだからあまり雑に扱わないでほしい。
それからはほぼAに引きずられるようにして歩き、そして屯所は目の前まで迫っていた。
「ほら観念して、ちゃんと歩いてくださいよ隊長」
「はぁ……ヘイヘイ」
溜め息が漏れる。やっぱりもう少し入院延長を申し出るべきだっただろうか。
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もち(プロフ) - 感動して1人で泣いてました😭😭とても引き込まれて気づいたら最後まで読んでました!!完結まで長かったですが素敵な小説書いてくれてありがとうございました!お疲れ様でした!😊😊 (2022年4月4日 14時) (レス) id: f64c573671 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - astrumlunaさん» astrumlunaさん!ありがとうございます!!最後まで読んでくださり嬉しいです!!私もこのお話の沖田隊長と夢主ちゃんはとても愛しいです(o^−^o) これからも二人は幸せになっていくんだと思います…!!素敵なコメントありがとうございました!! (2020年4月16日 12時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
astrumluna - この作品を見つけてから、一瞬で読み終わってしまいました!! 凄く引き込まれるお話で、沖田さんも夢主ちゃんも大好きです笑 最終話の“さぁ、今日も〜”という部分でこれからも幸せな日々が続いていく感じがしてとても好きです!! もっともっと2人の物語を読みたいです!! (2020年4月16日 12時) (レス) id: 67fd5c2fc4 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 憐さん» 憐さん!ありがとうございます!お返事が遅れてしまってすみません…!一日で…!!長いのにありがとうございますぅぅ!!日下部さんは読者様から人気でとても嬉しく思います!(o^−^o) きゅんきゅんを目指したので沢山きゅんきゅんして頂けたなら大成功です! (2020年2月19日 16時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - yukakdonaldさん» yukakdonaldさん!ありがとうございます!お返事が遅れてしまい申し訳ありません!!番外編!久し振りに日下部さんを書きたいです…!!どんな風にしようかそろそろ考えてみようと思います!!最後まで読んでくださりありがとうございました!! (2020年2月19日 16時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2019年4月5日 21時