そういうことにしておこう ページ23
「…別に、からかってた訳じゃねェよ」
「…え?」
「さっきの」
と、彼が突然攻防戦をやめてそんなことを切り出すから、何の話をしているのか最初は分からなくて、聞き返すと答えてくれた。「痛いの痛いの飛んでけの話」と。その呪文をわざわざリピートしてくる辺り、恐らくそこに悪意がない訳ではないのだろうと分かっていたけれど、彼はまた口を開きそうだったので取り敢えずそのことは言及しないでおいた。私は沖田隊長の言葉に耳を傾ける。
「からかってた訳じゃねェ。馬鹿にしてた訳じゃねェ。ただ、……ただ…」
「…ただ?」
沖田隊長が言い淀んで、それが珍しいから彼から目を逸らすことも忘れてじっと彼を見つめて、私は続きを促した。今度は彼の方が私から目をそっと逸らして、ゆっくりと躊躇いながらというように続けた。
「…お前が俺のために、…あーやって必死になってたのが、傍に居てくれたのが、可愛くて、嬉しかった」
「…ッ」
言葉にする度に、言葉の終盤へと向かっていく度に、その声は小さくなっていった。けれど、静かな病室では、ちゃんとその言葉のすべてが欠けることなく私の耳に届いてきて、私はどうしようもなく、胸を締め付けられて、どうしようもなく、彼を愛しいと思った。
この感覚は彼を好きになってからは毎日のように感じているものだけれど、いつまで経っても馴れないままだ。初めてそれを感じたときと同じように、薄れもしないで、甘い痛みが帯びる。これからもきっと、この感覚に耐性なんてつかないのだろう。真新しい感覚のまま、古ぼけることなく、この痛みを重ねていくのだろう。
その痛みの数だけ、彼に恋していくのだろう。
「…いきなり、素直になるんですね」
「…うるせェ」
そうでもしねェとお前いつまでもプリプリ怒ったままだろィ、と。彼は言う。私はそこまでしつこく根に持つタイプではないと思っているのだけれど、実際のところどうなのかは分からなかった。
彼がこうして素直になるのは、珍しい。なんだか虹を見つけたような気分になる。
彼が素直になったのに、私が素直にならないのはどうなのだろう。フェアではないのではないかと思って、私は呟くように口にする。
「…じゃあ、私も」
「ん?」
「…貴方がそっぽを向いて、黙り込んでしまったとき、実は少しだけ、寂しかった…のかもしれません」
あんなにも重たく耐え難い沈黙を経験したことはなかった。だから、そういうことにしておこうと思う。
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もち(プロフ) - 感動して1人で泣いてました😭😭とても引き込まれて気づいたら最後まで読んでました!!完結まで長かったですが素敵な小説書いてくれてありがとうございました!お疲れ様でした!😊😊 (2022年4月4日 14時) (レス) id: f64c573671 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - astrumlunaさん» astrumlunaさん!ありがとうございます!!最後まで読んでくださり嬉しいです!!私もこのお話の沖田隊長と夢主ちゃんはとても愛しいです(o^−^o) これからも二人は幸せになっていくんだと思います…!!素敵なコメントありがとうございました!! (2020年4月16日 12時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
astrumluna - この作品を見つけてから、一瞬で読み終わってしまいました!! 凄く引き込まれるお話で、沖田さんも夢主ちゃんも大好きです笑 最終話の“さぁ、今日も〜”という部分でこれからも幸せな日々が続いていく感じがしてとても好きです!! もっともっと2人の物語を読みたいです!! (2020年4月16日 12時) (レス) id: 67fd5c2fc4 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 憐さん» 憐さん!ありがとうございます!お返事が遅れてしまってすみません…!一日で…!!長いのにありがとうございますぅぅ!!日下部さんは読者様から人気でとても嬉しく思います!(o^−^o) きゅんきゅんを目指したので沢山きゅんきゅんして頂けたなら大成功です! (2020年2月19日 16時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - yukakdonaldさん» yukakdonaldさん!ありがとうございます!お返事が遅れてしまい申し訳ありません!!番外編!久し振りに日下部さんを書きたいです…!!どんな風にしようかそろそろ考えてみようと思います!!最後まで読んでくださりありがとうございました!! (2020年2月19日 16時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2019年4月5日 21時