【銀魂】沖田隊長、おはようございます【沖田総悟】

めんどくさいぞ ページ20

「……A」


と、彼は私の名前をまた少しだけ掠れた甘えた声で呼んでは、私の服の袖を摘まんでいたのを一度離すと、今度は私の手をキュ、と弱い力で掴んだ。それは振り払えば簡単に離れてしまうくらいに力が入っていなくて、そんな切実な力加減だから、何処かうっ…と息を詰まらせるものがあって、心がぐらりと揺らぐ。顔を逸らしているから彼からは私がどんな顔をしているか見えていないはずだ。けれど、彼はきっと知っている。ムッとした不機嫌な顔なんてもう何処へやらで、今の私は完全に沖田隊長の策略のままに顔をゆでダコのように赤くして迷いに満ちた表情をしているということを。

確信犯だ。間違いない。これは確信犯だ。沖田隊長は分かってこれをやっている。こんな子猫みたいな声で私の良心を痛ませるようなことをして。こんな甘えた態度で私を誘惑しようとして。それが私だって分かっているから、それでも彼の方を向かない。意地でも向かない。向いてしまったら負けだ。彼は「やーい引っ掛かった」みたいなことを言って、腹立たしくニタァと笑うのだ。あぁ想像しただけで腹立たしい。

向かない。向くもんか、と。私は自分言い聞かせる。最早言い聞かせている時点で負けなのでは？ とふと思ってしまったけれど、それには全力で知らないふりをした。


「…」

「…」


沈黙。私も沖田隊長も黙る。

なんだ、この沈黙は。あれなのか。私がこの何とも言えない沈黙に耐えきれなくなって痺れを切らすのを狙っているのか、そういうことなのか。ならば私はやはり動くまい。彼の思う壺になるわけにはいかない。今回、私は彼に敗北するわけにはいかないのだ。私のプライドにかけて。

そうやって決意を固めていれば、沖田隊長は不意に私から手を離した。そしてまた布が擦れる音がして、彼が視界の端でまたベッドに寝転がったのが分かった。


……あ、ヤバい拗ねる奴だ。


私が頑固に彼の方を向こうとしないから機嫌を損ねたのか。なんてことだ、思ってたのと違う。渋々でもごめんなさいと謝ってくれるか、はたまた無理矢理にでも、頭を掴んででもそちらを向かされるかだと思っていた。なのに、拗ねた。


めんどくさいぞこれは。


「お、沖田隊長…？」


と、布団をしっかりと被った沖田隊長を呼ぶけれど、彼は返事もしなければピクリともしない。これはガチな奴だ。私が悪いわけじゃないのに、なんだか理不尽だ。まぁ、彼が理不尽なのは今に始まったことではないけれど。

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