【銀魂】沖田隊長、おはようございます【沖田総悟】

私はまた ページ15

Aside


──A

そう、彼は掠れた小さな声で。まるで目覚めたばかりのまだ幼い子供のような何処かあどけない声で、私の名前を呼んだ。彼の声が、この病室の空気を震わせた。彼の声が、私の鼓膜を揺らした。一週間と数日ぶりの、沖田隊長の声。その声を聞いて。彼の目がゆっくりと開いていったのを見て、私はどうしようもなく泣いた。ボロボロと、もうそろそろ出し尽くしたかもしれないと思えていた涙が、まだまだ足りないという風に溢れ出てきた。この時のために待っていたという風に、涙は私の頬を伝っては白いベッドに落ちていった。歪な円をそこに描いて、染みていく。

もう、泣きすぎて私の中にあった水分はすべて無くなってしまうのではないだろうか。けれど、それでもいい。沖田隊長が目を覚ましてくれた。それで溢れた涙だ。泣いて泣いて泣き尽くして干からびたとしても、きっと彼は、私にまた水をくれるから。

沖田隊長が居てくれるなら、彼は私にたくさんの感情をくれる。その感情を揺らしてくれる。私はまた、笑うことも、泣くことも出来る。


今だってほら、彼が目を覚ましてくれる。それだけでこんなに嬉しい。


「…うッ……ふ、うぅぅ…」

「……A」

「よ、かったぁ…」


安心して、気が抜けて、足がふらついてしまう。もう座り込んで、涙でぐちゃぐちゃになった顔を両手で抑えてしまいたい。けれどそうしたら彼の顔が見えなくなってしまうから、私は彼の隣に立ち続けた。泣き顔で恥ずかしくても、彼を見つめ続けた。


「目を開けてくれて……も、起きてくれないんじゃないかって……怖かった…！」


怖かったよぉぉ…、なんて。もう自分が何を言っているのか分からない。頭で考えるより先に、言葉を校正するよりも先に言葉が口から漏れていってしまう。抱え続けた不安だとか焦燥だとか恐怖だとか、感情が安堵によってすべて外に放出してしまっているようで。

本当に、怖かった。不安で、寂しくて、仕方がなかった。彼の居ない日々がこんなに苦しいなんて、知らなかった。


「…ったく」


ぐしぐしと隊服の袖で涙を拭っていれば、彼の声が聞こえる。呆れているような声。


「……泣いてんじゃねーよ」


涙を拭って、少しクリアになった視界に映った、そう口にした彼の顔は、なんだか、泣き出しそうな顔をしていて。その赤い瞳が私を映して、ゆらゆらと切実に揺れていて。それが見とれてしまうほどに綺麗で。


胸の奥が甘く痺れるように痛みを帯びて、その痛みが、彼が目覚めたことに現実感を持たせていった。

笑え→←おかしいな　沖田side

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