朝が嫌いだった 沖田side ページ13
*
──手のひらに、まだ温もりを感じていた。
夢の中でもずっと、俺の手の中にあった小さくて優しい温もりが、変わらずにそこにあった。遠くから、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、と規則正しい機械音が聞こえてきて、これは何の音だろうと俺はぼやけた頭で考えてみる。聞き覚えのあるような、ないような。暫し思考していると、遠く離れていて、何枚かの扉で隔てられているように感じるほどくぐもっているその音が、少しずつ近付いてきて、それが心電図の音だということに気付いた。そして同時に俺は今病院に居るのだということを理解した。俺は病院のベッドに寝かされて、ずっと眠り続けていたのだと。さっきまで見ていた姉上と武州の景色は、すべて夢だったのだと。
けれど、ただの夢だと一言で片付けてしまうには、なんだか勿体ない気がした。俺は夢の中で、姉上に会っていたのだ。姉上は、俺にまだ来るなと、そう言いに来てくれたのだ。俺の帰りを、目覚めをを待っている存在が居ることを思い出させに来てくれたのだ。俺を、奮い立たせに来てくれたのだと。そう思った。
瞼が重かった。身体も自分のものではないかのように、重かった。頭が覚醒していなくて、俺はまた意識を失いそうになる。眠りに沈んでしまいそうになる。
その時、聞こえた。
「…沖田隊長、」
起きてください、と。その声が聞こえたのだ。俺の名前を呼び、俺を起こす声。その声は掠れていて、囁くように小さな声だったけれど、俺の耳に届いて、鼓膜を揺らして、しっかりと伝わった。それを証明するように心臓がドクンと音をたてて。
俺は自らの意識を手繰り寄せるようにして、その温もりに応えるように、握り返した。握り返そうとした。あまり力が入らなかったけれど、それでも。
俺を連れ戻してくれたその手を、俺は握りたかった。
「……ん」
「…ッ……」
早く、早くソイツの顔を見たかった。俺の手をずっと握ってくれていた、俺の隣に居続けてくれた、ソイツの顔を。
俺は朝が嫌いだった。一日が始まり、昨日もあったような、同じような日をまた繰り返すのが面倒だった。それでいて眠い中布団から出るなんて、そんなしんどいことあるかと俺は思っていた。けれど、ソイツと出会って、それが変わったのだ。
ソイツが俺の傍に居るようになってからは、毎朝毎朝俺を起こすためにソイツがやって来て。俺の名前を呼びながら身体を揺らすのだ。俺は朝日が眩しくて目を細めながら、目を開ける。
すると、そこには。
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もち(プロフ) - 感動して1人で泣いてました😭😭とても引き込まれて気づいたら最後まで読んでました!!完結まで長かったですが素敵な小説書いてくれてありがとうございました!お疲れ様でした!😊😊 (2022年4月4日 14時) (レス) id: f64c573671 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - astrumlunaさん» astrumlunaさん!ありがとうございます!!最後まで読んでくださり嬉しいです!!私もこのお話の沖田隊長と夢主ちゃんはとても愛しいです(o^−^o) これからも二人は幸せになっていくんだと思います…!!素敵なコメントありがとうございました!! (2020年4月16日 12時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
astrumluna - この作品を見つけてから、一瞬で読み終わってしまいました!! 凄く引き込まれるお話で、沖田さんも夢主ちゃんも大好きです笑 最終話の“さぁ、今日も〜”という部分でこれからも幸せな日々が続いていく感じがしてとても好きです!! もっともっと2人の物語を読みたいです!! (2020年4月16日 12時) (レス) id: 67fd5c2fc4 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 憐さん» 憐さん!ありがとうございます!お返事が遅れてしまってすみません…!一日で…!!長いのにありがとうございますぅぅ!!日下部さんは読者様から人気でとても嬉しく思います!(o^−^o) きゅんきゅんを目指したので沢山きゅんきゅんして頂けたなら大成功です! (2020年2月19日 16時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - yukakdonaldさん» yukakdonaldさん!ありがとうございます!お返事が遅れてしまい申し訳ありません!!番外編!久し振りに日下部さんを書きたいです…!!どんな風にしようかそろそろ考えてみようと思います!!最後まで読んでくださりありがとうございました!! (2020年2月19日 16時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2019年4月5日 21時