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「トントン」
話ってなに?と夕日が射し込む教室で首を傾げる彼女に
また鼻が疼いたような気がして、小さく鼻をこすった。
「あ、あのさ」
まさに一世一代。
それくらいの気持ちで、用意した言葉を伝えようと奮起した。
瞬間。またあの感覚が、俺を襲う。
流れる液体に彼女が目を白黒させるのが分かった。不慮の事態に、二の句が継げない。
くそ、こんなときに。
なにか言わなければ、と口を開く俺より先に、どこか焦った様子の彼女が叫ぶ。
「ご、ごめんなさい!」
差し出されたティッシュを反射的に受け取ると彼女は大きく踵を返して、そのままばたばたと走り去ってしまった。
呆然とその様子を眺めて、もらったティッシュをもはや手遅れに近い自身の鼻に今更ながら押し付けた。
あれ、これ俺振られた?
目の前でつう、と静かに流れた赤い液体を見て、私は正反対に顔を青くした。
血の気の引く顔と裏腹に、体は火照ってゆく。
喉が、渇く。
「ご、ごめんなさい!」
彼にティッシュを押し付けて、その場から逃げ出す。ごめんなさい、ごめんなさい!
渇く喉。鬩ぐ思考。
ああ、確信してしまった。
わたしは、『あれ』が欲しいのだ。
わたしはいわゆる、『吸血鬼』というものらしい。
母親から譲り受けたこの血と体質を、今まで何度恨んだことか。
初めてこの血の弊害を受けたのは、中学生のときだった。
初めてされた告白に、舞い上がって頷こうとした瞬間。
相手が突如鼻血を出したのだ。
相手もわたしもなにがなんだか分からなくて、困惑したままそのときは雰囲気ぶち壊しだね、なんて笑いあった。
それから彼とは何度か2人で遊んだけれど、なぜか毎回彼が鼻血を出すのでだんだん気まずくなってしまった。いや、それだけが理由ってわけでもないけど。
鼻血体質なの?と尋ねたこともあったけど、彼は首を捻るばかりだった。
そうしてありがたいことに今まで何度か好意を寄せてもらったことはあるのだが、
なぜか全員頻繁に鼻血を出していた。
あ、断っておくけど、これは嘘でも冗談でもない。こんな冗談つまらなすぎるし。
途中からだんだん、これはおかしい、とわたしの中で疑問が生まれるようになっていった。
その疑問は大きく膨れ上がって、ついには母にその悩みをぽろりと零した。
神妙な面持ちのわたしを無視して、母はあっけらかんとした表情でこう言い切った。
「それ、Aのせいよ」
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作者名:越生 | 作成日時:2017年12月21日 23時