【tn】まずはカーテンコールに火を灯せ ページ5
やらかした。
ただその言葉だけが、頭の中を回っていた。
冷やかしながらもあれこれ世話を焼いて応援してくれた友人たちに、
どう説明したものかと取り残された教室で一人逡巡する。
先ほど俺に起こった悲劇を説明するために、まずは自身の不可思議な体質について語っておかねばならないだろう。
少しだけ独り言を、聞いてもらいたい。
元々仲のいいクラスメイトだったAに、いわゆる恋慕を抱くまで、
大して時間はかからなかった。
友情を超えて恋愛感情が強くなるにつれて、自然と彼女を目で追う頻度も高くなった。
この頃から、俺はどうにもおかしくなってしまったらしい。
「あ、」
「ちょっまじかトントン！またやんけ！」
前触れなく自身の鼻から垂れたそれに、俺よりもむしろ周囲が慌てふためく。
俺はというと、どこか他人事のように赤い液体を見つめながら差し出されるティッシュを受け取るのが常だった。
また、という友人の言葉に端的に表れているように、こうして突然鼻血を出すことは初めてではなかった。
前触れもサインも特にはない。
ただ、ひとつ気になることがあるとすれば。
彼女に一瞥をくれる。
「童貞も拗らせるとこうなるんやなあ…」
しみじみ、といった効果音でもつきそうな面持ちで、友人が呟く。
すかさず拳を作って持ち上げると、冗談やん、と友人は素直に退いた。
軽口を叩く友人とは対照的に、俺の悩みは深刻だった。
それこそ、友人の言うように経験の少なさが関係しているのではないかと思う程度には。
短絡的に言ってしまえば、俺の悩みというのはこの鼻血であった。
ただの鼻血ならば、大した問題ではない。問題なのはその頻度と、タイミングであった。
はあ、とため息を吐く。
なぜか彼女、Aを見ているとき、この血はよく騒いだ。
その一見すると幼い感情を拗らせすぎたような振る舞いに、友人らも面白おかしく騒ぎ立てた。
だが、あいつらもなんだかんだ応援してくれていたのだ。
今日も、背中を押されて送り出された。
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作者名：越生 | 作成日時：2017年12月21日 23時
