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それからぽつぽつと零した彼女の話をまとめると。

4日前、つまりは最後にAの姿を見た日、
大学からの帰り道で、路地裏に横たわる野良犬を発見したらしい。

弱った様子のそいつに近づいた瞬間腕に噛みつかれてしまい、
感染症を心配してその後病院に行くも、問題ないと診断されたそうだ。

「…それから、家に帰って、熱っぽくなって」

不安になり自身の症状をネットで調べるうちに、安っぽい都市伝説のページに辿り着いたのだという。

同じ症状を訴える掲示板の書き込みを辿って、『吸血鬼』なんてキーワードに笑って。

寝付けないまま朝を迎えたとき、真っ先に違和感を覚えたのは。


「太陽が、妙に、眩しくて」


カーテンを閉めて。


「…喉が渇いて、水、飲んだけどっ…!もっと、酷くなって…っ」


そうして、半狂乱の中食器を割ってしまったのだと。


「…わたし、もう、外にも出られないのかな」


にわかには信じがたい話ではあるが、どう見ても異様な彼女の様子と揺らめく赤い目に、
無言で頷くしかなかった。


理解するしか、なかった。


喉が渇くのだと泣く彼女に、俺ができることは、ひとつだと。


「…大丈夫だよ」

細い身体を抱き寄せて、震える背中をさすってやる。

3日ぶりのその身体は、随分窶れたように思える。

耳元で聞こえる上がった息遣いに応えるように、彼女に大丈夫を繰り返した。ほら、大丈夫だよ、



「血なら、ここにあるよ」



先ほどまで大人しく宥められていたAがその言葉に肩を大きく跳ねさせて、
狼狽した目で俺を覗き込んだ。

彼女が最初に零した『帰って』は、こんな展開を避けるためだったのだろう。

そんなのできない、とうわ言のように薄い唇から漏れ出す言葉を無視して、
自身のワイシャツのボタンを外す。

首筋が露わになるにつれて小さくなる目の前の弱音に彼女の限界が近いことを察しながら、
ぼんやりと『やっぱ噛まれると痛えのかなあ』なんて取り留めもないことを考えていた。

「ほら、A」

もう一度彼女を抱き寄せて、無防備な首筋を差し出す。もう弱音は聞こえなかった。

真っ暗な部屋で、ただ、小さく喉を鳴らした彼女の赤い目だけが、煌々と輝いていた。
そうだ、それでいい。





お前を太陽の下に連れ戻す方法も、理由も、俺にはあるから。

*→←*



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作者名:越生 | 作成日時:2017年12月21日 23時

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