【kn】騙くらかしてこんばんは ページ13
じわじわと肩口に熱が集まる。
彼の残した歯形が、痛みとなってその存在をわたしに知らしめた。
「ごちそうさま」
彼のその一言で痛みが『幸せ』に変わってしまう程度には、わたしは馬鹿だ。
大学で仲良くなったコネシマという男は、一見人当たりが良いように見えてその実根っからの功利主義者である。
『心が無い』としばしば評される彼と、どうして自分がここまで仲良くなれたのかは分からない。
ただ、彼とのつかず離れずの距離感が心地よかった。
お互い暗黙の内に、プライベートに踏み込みすぎないというルールがあったかのようだった。
そんな彼の部屋を初めて訪れたのは、今から三か月ほど前のことである。
七面倒なレポートを一緒に片付けようという彼からの申し出を、わたしは2人きりであるにも関わらず二つ返事で了承した。
というのも、彼の功利主義者の仮面の下にあるのが『誠実』の二文字だということを、この時分には重々理解していたからである。
…全部理解しきれていたかというと、そういうわけでもないのだが。
そこそこ真面目にワープロに文字を打ち付けて、あと300字、というところで手が止まった。
どうしてもこのもう少しが埋まらない。
表現を変えて同じことをそれっぽく書いてしまおうかな。
ねえどう思う、と同じくレポートと睨めっこしているだろう彼に顔を向ける。
「…え、」
予想は外れて、頬杖を突きながらなぜかわたしを見ていたコネシマと目が合う。
それがなんだか気恥ずかしくて、目を逸らしもしない彼にレポートの進捗を間抜けな声で尋ねた。
間髪入れずに「終わった」と返した彼は、やはり目を逸らしてはくれない。
また妙な沈黙が狭い室内を凪いだ。
別に沈黙が気まずい間柄というわけでもない。
だが、そこまで不躾に見られると、少し気恥ずかしいような、いたたまれないような。
彼の口が、動く。
ようやく破れる沈黙に安堵したのも束の間またこの狭いワンルームには、静寂が訪れることとなる。
それも、えらく突拍子のないことで。
「俺さ、吸血鬼なんよ」
「…は?」
笑いに似た声が、漏れた。
221人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:越生 | 作成日時:2017年12月21日 23時