第九十七幕 ページ3
声が、出ない。
その事実に、先程ようやく落ち着いた心臓が再び大きく動き出す。
何度も深呼吸をして声を出そうと集中するが、出るのは掠れた息ばかりだ。
私の事を遠巻きに見てくる他の役者達の顔が、やけにはっきりと見える。
怪訝そうな顔、迷惑そうな顔、無関心…
「少し外に出よう。
まだ出番までは時間があるから」
ロナードは、私の肩に手を回すと、そのまま立ち上がらせた。
足に力が入らず、彼に体を預ける様にしながら進んでいく。
ロビーやラウンジを抜け、連れてこられたのは裏口だった。
「ここなら人通りはほとんどないから、少し落ち着けると思うよ。
ねぇ、何かあったの」
ロナードは、私を落ち着かせる様に背中をさすりながら聞いた。
声が出ない、とジェスチャーで伝えようとしたその時だ。
『ぅ…ぁ』
自分の喉からは、しっかりと声が出たのだ。
先程までは、どんなに出そうとしても出なかったのに、だ。
『声が…声が出なかったんです。
つい先程まで…なのに、どうして』
一体どうしてなんだ。
以前まではそんな事、なかったのに。
「さっきの演技も、前と何か違ったよね。
少し疲れているのかもしれないね。出番まではまだあるから、ゆっくり休んでいて」
私はそれに頷き、ロナードと楽屋に向かって歩き出した。
確かに疲れているのかもしれない。
楽屋に戻ると、人は一切いなかった。
確かこの場面は、多くの人が舞台に上がるんだったか。
「僕も行ってくるよ。また後で」
ロナードも小走りで舞台に上がっていった。
楽屋には、ただ一人私だけが残されている。
演技力を短期間に上げる方法…
やはり疲れを取るのが良いんだろう。
だが、出番までは残り20分。仮眠を取れる様な時間でもない。
衣装のまま寝転がる訳にもいかないし、メイクも崩せないから突っ伏す事も不可能だ。
その時、視界の端にベラ専用の区切られた椅子が見えた。
確か、彼女はベラドンナを…
いけない。私はもう二度と使わないと決めていたはずだ。
なのに、自然と足が動いていた。
やはり、ベラの椅子の上にはベラドンナの花が置かれている。
心臓が、異様に高鳴っている。
先程声が出来なかった時よりも、ずっと。
この花自体が違法な上に、これは盗みじゃないか。
頭では、分かっている。
分かっているのに。
私の手は、自然と花を手に取っていた。
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海猫珈琲(プロフ) - お茶飲み隊・茶柱さん» 嬉しいコメント本当にありがとうございます！中々更新が遅れていますが、しっかり完結できるように頑張ります！ (1月21日 16時) (
レス) id: 2d7b04296e (このIDを非表示/違反報告)
お茶飲み隊・茶柱(プロフ) - 第五人格の小説の中でもダントツで読みやすく、ストーリーの構成が綺麗だと思いました…！！こんなに好きだと思えた作品あまり無いので出会えて嬉しいです！！更新、のんびり待っています (12月13日 17時) (レス) id: 97cc3b8ecb (このIDを非表示/違反報告)
3人の隊長と座長の剣士@自由浮上自由返信(プロフ) - 海猫珈琲さん» 無理をしない程度に楽しんでくださいね!こちらこそありがとうございます! (6月7日 8時) (レス) id: 7a2b30f834 (このIDを非表示/違反報告)
海猫珈琲(プロフ) - 3人の隊長と座長の剣士@自由浮上自由返信さん» お久しぶりです！長らくお待たせしました。これからは更新頻度どんどん上げていきますね！コメントありがとうございます。 (6月7日 8時) (レス) id: b2ab9dc6ab (このIDを非表示/違反報告)
3人の隊長と座長の剣士@自由浮上自由返信(プロフ) - お久しぶりです!久々の更新､大変嬉しいです!いやぁ今後の展開がすごく楽しみです! (6月7日 6時) (レス) id: 6196f83925 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：海猫珈琲 | 作成日時：2023年1月28日 11時
