コード・ブルー -Blue steelyard 8-

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俺と新海の呼吸が、一瞬止まったような気がした。



「私、何も知らずに大嫌いなんて言ったこと、ちゃんと謝りたい。

A先生のこと、よく考えたら私、何も知らなかった」



だから、と振り向いたときに長い黒髪が揺れて、その雰囲気がAに似ていた。



「お願い先生、教えて…？」



必死に訴えてくるその目と向かい合った最後、逸らすことはできなかった。



一瞬の逡巡ののち、ひとつずつ言葉を選ぼうと頭を動かし、口を開く。



「心筋梗塞は、分かるか」

「うん」

「────……あいつの心臓は…急性冠症候群という病気で、いつ心筋梗塞に発展してもおかしくない、いわば心臓そのものが、爆弾なんだ」



分かりやすいように、言葉を噛み砕いて伝える。



天野さんの丸い目が、それ以上に大きく見開かれた。



「………死ぬ、の…？」



自分がその症状を背負っているわけでもないのに、その死という現実味を帯びた言葉に、ひどく、自分の心臓が冷えた気がした。



「心筋梗塞に発展して、処置が遅れれば…助かる可能性は、低くなる」

「心臓は、脳と同じで繊細なんだ。

心不全や色々な合併症を起こすと、心停止して助からないことだってある」



新海が俺の隣に寄りながら、天野さんの目を見てゆっくりと話す。



「……今日から検査入院、手術は順調に進めば明後日だ。

心配しなくても、あいつは許してくれる」



俺の言葉にひとつ、大きく頷いた彼女は、ふたたび身体を前に向けて、紙コップのお茶を飲もうとそれを掴んだ。



震える手でも、上手くいけるかと思った瞬間。



────ぱしゃん！



からから、と音を立てて空になった紙コップが床の上で跳ねる。



飛び散ってしまったお茶を布巾で拭きながら、ふと思った。



掬えない水は、掴み取ることのできない命のようだと。



部屋の窓から、青い空に向けて出動を受けたドクターヘリが舞い上がっていくのが見えた。



何でも今回は成田空港で、男性が倒れたのだとか。



────関わってないといいが…。



ストッパー役があれでは、少々不安が残る。



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(香坂)

「ぶぇくしょいっ」

「わ、びっくりした」



盛大なくしゃみをした京先生は、鼻をすすりながら誰か噂しとんなこれは、と眉を寄せる。



そんな彼は相変わらず変わらないなぁと心の中でしみじみと思っているとき、周りが騒がしくなった。

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