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「翔陽大学附属北部病院救命救急センターから、ドクターヘリが出動してくださるようです」
あ、それうちの病院です。
とはさすがに言えないので、そうですかとだけ返して、京先生と顔を見合わせて頷く。
「脳やったら厄介や、動かさんと…────そっち任せるで」
「わかった、皆が来るまで繋ぎます」
いつでも心臓マッサージを始められる体型を取った私は、ん?と小首を傾げた。
「どないした?」
「鼻血が…熱中症かな?」
見やれば、患者の鼻からわずかだが血が流れつつあった。
鞄から取り出したティッシュで拭き取ろうとした手を、京先生にぺしりと叩かれる。
「あほ、感染症やったらどないすんねん。
手袋もなしに触ろうとするな、危険や」
「…すいません」
大人しく引っ込まないと、あとでもう1人鬼が増えることになる。
────それは勘弁。
苦笑を浮かべると、京先生はよろしいと頷いた。
頼もしい医者達が駆けつけるまで────あと数分。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(藍沢)
俺や天野さんの、隣や後ろに寄り添うように控えているAは、今日はいない。
オセロを1枚ひっくり返すのもやっとの様子の天野さんに、どう声をかけてよいのか、Aのようにその背中に声をかける勇気は、ない。
「……先生?」
だから、まさか彼女の方から声をかけてくるとは思わなかった。
「私の手術のとき、A先生が途中で助けに行った患者さん、いまどうしてるの?」
「退院した。
仕事に復帰してる」
向こうからやってきた新海の存在に、彼女は気がついていない。
「何やってる人?」
背を向けたままそう無邪気に聞いてくる少女に、俺と新海は顔を見合わせた。
「…患者の個人的な情報は、教えられない」
「…そう。
私の仕事はね、────ピアニスト」
つきりと、胸が痛みを訴えた。
後悔と無力さの、小さな痛みが、あっという間に広がっていく。
「ピアノはね、この手で触れると、いつも沢山の音をくれた。
びっくりするぐらいの興奮とか、どうしょうもない、悲しみとか。
でももうそんな音は聞こえない。
鍵盤を押しても、聞こえてくるのは────ただの音」
ぱちり。
最後のオセロを無事にひっくり返すことのできた天野さんは、奥においてあった紙コップに手をのばす。
「……ねぇ、A先生の病気って、なに?」
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リラン(プロフ) - 前にも読み終わったんですけど、また読みたくなって読んじゃいました笑ところどころ私の好きな小説と似たようなセリフでてきていて、感動っていうかすごく心に響くめんがありました!改めていい作品です! (2022年7月22日 8時) (レス) @page42 id: f068be0892 (このIDを非表示/違反報告)
クリスティ38(プロフ) - もはや、オリジナルすぎてコードブルー←ではないと思いますが。一個人の感想ですので……夢主以外にオリキャラだした時点で、オリジナル多すぎな時点でもう脱線というか、名前使った別物に感じました。私が、オリジナルやオリキャラ出すの認めてない人なので…… (2019年9月23日 18時) (レス) id: eb0de2c665 (このIDを非表示/違反報告)
Mitsuki - 最近更新されていないようですが、大丈夫ですか?更新されるのを楽しみにしています。 (2017年11月10日 15時) (レス) id: 45294f18cf (このIDを非表示/違反報告)
丸メガネ - なんなんですか!明日学校なのに泣きすぎて目が腫れてしまうじゃないですか!と怒りたくなるくらい面白かったです。これも、何度目かのコメントですが、何回もコメントしたくなるほど面白いです!更新頑張ってくださいね。 (2017年9月19日 1時) (レス) id: c2c72ce877 (このIDを非表示/違反報告)
Kazsaaaan(プロフ) - 初めまして!ずっと1話から読ませていただいておりまして、今回8話のお話が涙なしでは読めなかったので気持ちを我慢できず感想を書きに来ました!もう!大好きです!過去のお話含め、切なさありキュンあり、ハラハラドキドキな毎話。更新楽しみにしています! (2017年9月11日 23時) (レス) id: 5f115adcd4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年9月5日 0時