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「いいねぇ…。
問題なさそうだ」
そう言う新海に、良かったという意味もこめて軽く頷く。
大きく息を吐き出したAの手を、力強く握りしめてやる。
細い指が、俺の手に絡まった。
「良かった…」
母親の言葉に涙をこぼす天野さんの表情は、これまでにないほど嬉しさに満ち溢れている。
「おかあさん…」
「泣かない。
────はい」
そう言って彼女に差し出したハンカチを受け取ろうと伸ばした手が、ぴたりと止まった。
────────嬉し涙が絶望の涙に変わるなど、誰が想像できただろうか。
彼女の、彼女達の心情なんて考えずに、神様はどこまでもひねくれている。
小刻みに震える右手を見て、Aが怯えたように一歩、後ろに下がった。
「………っ、…」
見開かれた薄茶の瞳がひび割れて、吐息のような呟きが、薄く開かれた唇から漏れる。
俺達を見た天野さんの瞳から、また一筋、涙がこぼれ落ちるのを。
俺は縫いとめられたように、その場から動けずに、その光景を見ていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(香坂)
────私は知っている。
この感情の名前を。
────私は知らない。
この先に待ち受ける、困難と奮闘の日々を。
────神様は知っている。
この少女に待ち受ける運命を。
────私は信じたい。
奇跡という、甘い欲望の果てにある結果を。
医者が奇跡を願うのはどうかと思う。
けれど、やれることを全霊をかけてやったから。
願うことくらいは、許して────。
涙は、流れなかった。
ただ、私の手を包んでくれるその手が、下手をすれば崩れ落ちそうになる膝を止めていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(藍沢&香坂)
────人は、他人の痛みは分からない。
私だって、人の心がよく分かるって言われるけれど、痛みまでは分からない。
────それは医者と患者に限らず、夫婦、親子、友人、どんな間柄でも、それは同じだ。
たとえ、どれほど恋焦がれる相手であろうとも。
────けれど、痛みは教えてくれるから。
自分のそばに、その痛みを分かち合いたいと思ってくれる人がいることを。
それが、こんなにも大切なことなんだと。
────その存在に、気づかせてくれる。
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萌香(プロフ) - 5の17ページの一番上です。 (2019年1月14日 1時) (レス) id: 72c059cc1e (このIDを非表示/違反報告)
萌香(プロフ) - 文字が間違っていると思います。 (2019年1月14日 1時) (レス) id: 72c059cc1e (このIDを非表示/違反報告)
珠緒(プロフ) - 最近この作品を見つけ読んでみると、想像以上に私のドストライクな作品でした(^^)最高です!ありがとうございます。続編も読んでいきたいと思います。他の方も書かれているように、映画も書いて欲しいですね〜。ステキな作品ありがとうございます。ずっと応援してます♪ (2018年8月9日 3時) (レス) id: 762a6c7fed (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - 久しぶりに読み返しました!表現が私の好きな表現で一気読みでした!映画も書かれますか?楽しみに待ってます! (2018年6月16日 9時) (レス) id: f2d0e5e7c8 (このIDを非表示/違反報告)
ayanel(プロフ) - ちぃさん» キュンキュンして頂けてとても嬉しいです〜ありがとうございます(´。pωq。`) (2017年8月22日 9時) (レス) id: 61d33ebdb1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月15日 0時