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(冴島)

────かたん。



小さな物音に顔を上げれば、Aが入口のところで、昼食の乗ったトレーを持って立っていた。



「A…わざわざ持ってきてくれたの?」

「ん、いーのいーの。

ちょうど手空いてたから」



声をかけてやれば、緊張に強ばっていた顔がいつもの彼女の顔に戻る。



────心配、かけちゃったな…。



Aは黒田先生の推薦で、研修医のときから翔北で勤務している。



だから私達のつき合いは、自慢じゃないけど藍沢先生達よりもちょっと長い。



そばに寄ってきて屈んだ頭を、ゆっくり撫でてやる。



この子が最後に泣いたのは────心の底から泣いたのは、いつだっただろう。



薄茶の瞳が揺らいで、うっすらと膜が張ってるように見えた。



「……ごめんね」

「うん」



いつになっても、こうやって妹のように接してしまうのは変わらない。



LAに行って、ノルウェーに行って、ひと回りもふた回りも逞しくなって帰ってきた背中は、その中に隠された心の弱さまでは、隠しきれない。



────いつもそうやって、誰かのことを一番に考える。



その心は、ほんとうに尊敬に値するものだ。



自分がつらいときに、寄り添ってくれる人がいること。



それが、そんなにも大切で、有難いことなんだと、今回の件で────そして彼女に、痛感させられた。




「…冷めないうちに食べてね。

いいなぁ、私も食べたいや」



今日はAの好きな和食で、思わず笑いがこぼれる。



「…────あんまり無理しないでね」

「う…。

ど、努力いたします」



去り際にきちんと釘をさすと、苦い顔をする。



────あ、何かあったな。



いつかまとめて聞いてあげようと心に決めたとき、今日はなびくポニーテールの髪が扉の向こうに消えた。



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(香坂)

それからすぐに、藤川先生がはるちゃんの病室にやってくる。



「香坂…悪いな」



扉の前で瞼を落としていた私は、その声にふっと瞼を押し上げる。



「んーん…。

お昼ごはん、美味しそうだったよ」

「そっか、んじゃ俺も頑張りますかぁ」



私が藤川先生のことをかずくんと呼ばなくなったのは、はるちゃんとつき合うようになってから。



もう、随分前のこと。

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作品ジャンル:恋愛
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萌香(プロフ) - 5の17ページの一番上です。 (2019年1月14日 1時) (レス) id: 72c059cc1e (このIDを非表示/違反報告)
萌香(プロフ) - 文字が間違っていると思います。 (2019年1月14日 1時) (レス) id: 72c059cc1e (このIDを非表示/違反報告)
珠緒(プロフ) - 最近この作品を見つけ読んでみると、想像以上に私のドストライクな作品でした(^^)最高です!ありがとうございます。続編も読んでいきたいと思います。他の方も書かれているように、映画も書いて欲しいですね〜。ステキな作品ありがとうございます。ずっと応援してます♪ (2018年8月9日 3時) (レス) id: 762a6c7fed (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - 久しぶりに読み返しました!表現が私の好きな表現で一気読みでした!映画も書かれますか?楽しみに待ってます! (2018年6月16日 9時) (レス) id: f2d0e5e7c8 (このIDを非表示/違反報告)
ayanel(プロフ) - ちぃさん» キュンキュンして頂けてとても嬉しいです〜ありがとうございます(´。pωq。`) (2017年8月22日 9時) (レス) id: 61d33ebdb1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月15日 0時

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