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(香坂)
袋を廃棄してから、私はトイレの手洗場で口をゆすいで、顔をしかめていた。
ニトロを飲んだわけでもないのに、頭がくらくらするし、身体が重い────貧血だ。
────ごはん、ちゃんと食べよう…。
今日の晩ご飯は卵おじやにしようと決めてトイレを出れば、やはり呆れ顔の人がそこで待っていた。
「……ごめんなさい」
思ったより、小さい声が出た。
「栄養失調と疲労だろうが…拍車をかけたのは倉田さんの言葉か」
────俺が、殺した…。
「ん…。
いやまさか、ここまでトラウマを発揮するとは正直思ってなかった」
奏ちゃんのことも頭の隅で気にかけているから、日本に帰ってきてからの私の頭はパンクしかけている。
「…そうか」
「あー、そんなに気に病まないで。
…それに名取先生のことだって、私がもっとちゃんといい言葉をあげられたら良かったんだけどね」
藍沢先生は私の後ろを歩いているから、どんな顔をしているのかは分からない。
けれどその歩みが止まったのが、足音でわかった。
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(藍沢)
「お前は、昔から言い方が甘いな」
一度開いた口は、フェローをいちいち気にかけるAと、その物言いが気にかかって、言葉を並べ始める。
「お前の言い方は、指導しているんじゃなくて母親が言い聞かせるようなものだ。
仮にも俺と同じ指導医なら、はっきり伝えた方があいつらのためになる」
違う、こんなことが言いたいんじゃない。
ひとりで抱え込むなとか、点滴ならつき合ってやるとか、ほかに言いたいことがある。
Aが、俺との距離を詰めた。
その瞳が、不安に揺れている。
「……私はただ、みんなが気づいてくれるようにヒントをあげてるだけ、だよ。
誰だって失敗するときだってあるでしょ?」
「────そうやって、名取も甘やかすのか」
これは、あいつへの嫉妬だ。
「私は私のやり方で伝えてるの!
…耕作のそういう言い方……、きらいだ」
Aの体調のこと、天野さんのこと、こいつが名取の心を動かしたこと、これからのこと。
すべてが重なって、俺の心に苛立ちを生み出す。
それは瞬く間に広がって、一番傷つけたくない存在の心を、お互いを、傷つけるのだ。
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萌香(プロフ) - 5の17ページの一番上です。 (2019年1月14日 1時) (レス) id: 72c059cc1e (このIDを非表示/違反報告)
萌香(プロフ) - 文字が間違っていると思います。 (2019年1月14日 1時) (レス) id: 72c059cc1e (このIDを非表示/違反報告)
珠緒(プロフ) - 最近この作品を見つけ読んでみると、想像以上に私のドストライクな作品でした(^^)最高です!ありがとうございます。続編も読んでいきたいと思います。他の方も書かれているように、映画も書いて欲しいですね〜。ステキな作品ありがとうございます。ずっと応援してます♪ (2018年8月9日 3時) (レス) id: 762a6c7fed (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - 久しぶりに読み返しました!表現が私の好きな表現で一気読みでした!映画も書かれますか?楽しみに待ってます! (2018年6月16日 9時) (レス) id: f2d0e5e7c8 (このIDを非表示/違反報告)
ayanel(プロフ) - ちぃさん» キュンキュンして頂けてとても嬉しいです〜ありがとうございます(´。pωq。`) (2017年8月22日 9時) (レス) id: 61d33ebdb1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月15日 0時