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(藍沢)
「…っ、う」
「────香坂先生?」
硬い白石の声にそちらを向けば、口元を手で抑えたAが、慌ててICUから出てその場にうずくまるところだった。
「どうした?」
歩み寄って彼女の背を白石とともに撫でてやると、ふるふると頭をふって、小さく呟く。
「……きもち、わるい…」
「嘔吐するか」
「……うっ、ん…」
そう答えたAの顔は青白く、そういえばこの2日、まともに寝ていなかったようだし、食事もいつもより少なかったように思える。
────こいつは…。
いい加減、自分のことを考えろ。
心の中で怒りを覚えつつ、何か袋をと腰を浮かせかけたとき、俺の視界に求めていたそれが映った。
「あの、…これ使ってください」
そう言って黒いビニール袋を差し出したのは、心配そうな顔をした名取だった。
「悪い」
「いえ…」
それを受け取ってAの口元にあてがう。
何度かの咳とともに、彼女は嘔吐した。
「っふ…げほっ、ごほ…っ」
胸の圧迫が苦しいのだろう、わずかに涙が滲んだ顔で袋の中を覗き見て、げっとうめく。
「……朝ごはん…」
「全部?」
「ん…この量なら多分ほとんど…」
白石の問いに苦笑しつつ、ふーっと息を長く吐いて立ち上がった彼女は、素早く袋の口を結んでこちらを振り返った。
「でも吐いたらすっきりした…心配かけてごめん」
「ほんとに大丈夫?
点滴打ってもらったほうがいいよ…?」
白石の提案は最もだろう。
栄養が取れないなら、無理にでも点滴をした方が少しは身体も楽になるはずだ。
「あー…今日の仕事終わったら考える」
「A…いつもそうやって無茶するんだから…!」
白石が抗議の声を上げたときに、Aはいつものへらりとした笑みを浮かべて見せた。
俺達を、安心させるように。
「大丈夫だよ、…ちょっと身体も心も忙しいだけだから。
あ、名取先生も、袋ありがとね」
そう言って手を振りながら袋を廃棄するために歩き出したAのあとを、俺はため息をつきながら追うのだった。
去り際に見せた、名取の表情を気にかけながら。
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萌香(プロフ) - 5の17ページの一番上です。 (2019年1月14日 1時) (レス) id: 72c059cc1e (このIDを非表示/違反報告)
萌香(プロフ) - 文字が間違っていると思います。 (2019年1月14日 1時) (レス) id: 72c059cc1e (このIDを非表示/違反報告)
珠緒(プロフ) - 最近この作品を見つけ読んでみると、想像以上に私のドストライクな作品でした(^^)最高です!ありがとうございます。続編も読んでいきたいと思います。他の方も書かれているように、映画も書いて欲しいですね〜。ステキな作品ありがとうございます。ずっと応援してます♪ (2018年8月9日 3時) (レス) id: 762a6c7fed (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - 久しぶりに読み返しました!表現が私の好きな表現で一気読みでした!映画も書かれますか?楽しみに待ってます! (2018年6月16日 9時) (レス) id: f2d0e5e7c8 (このIDを非表示/違反報告)
ayanel(プロフ) - ちぃさん» キュンキュンして頂けてとても嬉しいです〜ありがとうございます(´。pωq。`) (2017年8月22日 9時) (レス) id: 61d33ebdb1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月15日 0時