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目を合わせてくれなくて良かったと思う。
その瞳に見つめられたら、積み上げた決意なんて、あっという間に崩れてしまっただろうから。
沈黙が落ちる中、Aはおもむろに首の後ろに手をやって、ネックレスを外した。
そして、そのうちの細い方をチェーンから抜き取って、太い方が残ったネックレスを俺の手を持ち上げて、そっと手のひらに落とす。
「………覚えてる?
これね、ずーっと肌身離さずつけてたの。
7年間私のパワー溜め込んだから、ご利益あるよ」
「医療界期待の星のご利益なら、是非とも欲しいものだな」
────だから、わたしの半分、耕作にあげるよ。
そう言って、花の咲くような笑顔を浮かべるのだ。
「レジデント、これで受かったも同然かな?」
「…あぁ。
お前と一緒に行ってくる」
握り締めたシルバーリングは、まだほのかにあたたかい。
「…そろそろ戻らないと、お姫様はご立腹だな」
お姫様というのは、先程からまだかと急かすようにピアノを弾いている彼女のことだ。
いま行きますよーっと小走りに駆けていくAの後ろ姿を追いかける。
「あ、チェーン短くない?」
「…お前のサイズだから、無理だな」
確かに、俺がつけるには小さい。
元々アクセサリーに興味はないから、家にもそういった類のものはなかった。
「なら、家にある使ってない長めのチェーンあげる。
ユニフォームの下に隠れる方がいいでしょ?」
「あぁ、助かる。
なら、お前はこれでつけろ」
元々リングに通っていたチェーンを外して、彼女の手のひらに落とす。
結局戻ってきたと笑いながらそれをつけて、彼女の鎖骨の高さで揺れる、ピンクゴールドの細いリングがひとつ。
夕日を受けて髪とともにきらめくそれを、その笑顔を、ただ黙って焼きつける。
「奏ちゃん、おまたせ〜」
「もーA先生遅い!
どうせ藍沢先生が離さなかったんだろうけど!」
「…」
図星である。
天野さんは俺を見てにやりと笑った。
────皆が思うような関係じゃないんだがな。
「A先生の即興曲、藍沢先生も聞いて」
そう言った彼女が鍵盤に指を滑らせると、途端に優しい旋律が紡がれ始める。
どこか孤高さを帯び、それでいて心に染み入ってくるそれを、Aは目を閉じて聞いていた。
俺は一心にピアノを弾く天野さんを見ていた。
だから、Aの
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あやみん - 名取先生が、自分に、恋したなんて、最高です!!!!! (2019年8月19日 12時) (レス) id: ac50c68a33 (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 16話、朝日は登りつつではなく朝日は昇りつつ、ではないでしょうか? (2019年2月10日 15時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 14話、以外にも耕作だった。ではなく、意外にも耕作だった。ではないですか? (2019年2月2日 21時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 13話冒頭、横峯さんではなく横峯ではないですか?意図されてでしたらすいません (2019年1月18日 22時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
rabbit - 32の下から9行目「手術中にに」となっています。間違っていたらごめんなさい。 (2018年10月6日 23時) (レス) id: fec1ec90ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月1日 0時