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(香坂)
演奏は、ずっと聞いていたいと思うくらい素晴らしいものだった。
音楽はあまり詳しくないけれど、奏ちゃんが私のことを思って弾いてくれたものだと思うと、とても嬉しくなる。
「ありがと、奏ちゃん。
これって、耕作のときみたいにタイトルあるの？」
「うん。
タイトルはね、『Maiden of Libra.』」
ほー…英語なんてまたオシャレな……はひ？
「Maidenて…私そんな年齢じゃないんだけど…」
「いいの、充分そうだもん。
ふふ、やっぱりA先生の方が発音綺麗」
はは、一応帰国子女が、現役中学生に英語は負けられないからねぇ。
「でもよく分かったね、私天秤座だって」
「藍沢先生に聞いたの」
あー、…納得です。
わたしきっと今、菩薩みたいな顔してる。
若い子の情報量、舐めることなかれ。
これも脳内辞書に追加しておこう、うん。
「あの人、良くなった？」
「あの人…あぁ、秋本さん？
…身体の方は大丈夫だけど、心が問題かな」
「そっか。
でも、ちょっとわかる気がする。
その…死のうとした人の気持ち」
「…私も」
後頭部に鋭い視線が刺さったのは気のせいだ。
そんなに睨まないでよ。
奏ちゃんは耕作と私の方を振り返って、笑う。
「大丈夫だよ。
私、ちゃんと手術する」
そう言って彼女は、静かに人差し指をラの鍵盤に落とした。
その音は波紋のように部屋に広がっていき、やがて聞こえなくなる。
「………────弾けなくしないで」
小さな、ちいさな願いの言葉だった。
それは、かつて私が彼に漏らしたわがままに、ひどく酷似していた。
────医者でいさせてくれることを、許して。
奏ちゃんはそっとピアノの鍵盤の蓋を閉じると、手術同意書の紙を手に取る。
引っ張った拍子に、上に乗っていたボールペンが床に転がり落ちた。
私がそれを拾い上げる。
同意書を握り締める手が震えて、紙がくしゃりと歪んだ。
何も言わずに、その薄い肩を片腕で抱く。
「……先生。
私…やっぱり怖い」
「…うん」
その気持ち、痛いほどわかるよ。
身体の一部と言っても過言ではないピアノが、一生弾けなくなるかもしれない。
そんな可能性がある手術なんて────本当は、受けたくないよね。
Maiden of Libra：天秤座の乙女
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あやみん - 名取先生が、自分に、恋したなんて、最高です!!!!! (2019年8月19日 12時) (
レス) id: ac50c68a33 (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 16話、朝日は登りつつではなく朝日は昇りつつ、ではないでしょうか？ (2019年2月10日 15時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 14話、以外にも耕作だった。ではなく、意外にも耕作だった。ではないですか？ (2019年2月2日 21時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 13話冒頭、横峯さんではなく横峯ではないですか？意図されてでしたらすいません (2019年1月18日 22時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
rabbit - 32の下から9行目「手術中にに」となっています。間違っていたらごめんなさい。 (2018年10月6日 23時) (レス) id: fec1ec90ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ayanel
| 作成日時：2017年8月1日 0時
