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ダメージコントロール24時間経過後────。
私たちはICUに集っていた。
「体温は」
「37℃です」
後ろで白石先生が雪村さんに確認をとっている間に、私と藍沢先生、緋山先生で目視的に見える変化はないか確認していく。
「オールクリア、いけるね」
「────再開しよう」
オペ室に運び込まれると、腹部に詰め込まれたガーゼを、灰谷くんが鑷子で1枚ずつ取り出していく。
どれも血液を吸って重くなっていた。
「…もっとゆっくりね。
傷つけるから」
「…っはい」
私は隣でアドバイスしながら、患部を見ていた。
「一番奥の1枚は臓器に張りついてる。
剥がすときに組織を傷つけて出血したら、もう一度パッキングし直しだ。
振り出しに戻るぞ」
「…私がやるよ」
「すみません…お願いします」
灰谷くんの、この震える手じゃ無理だ。
鑷子を左手に取って息を吐く。
そっと上から摘んで、慎重に剥がしていく。
と、ガーゼの繊維が取れたのだろう、一気に中ほどまで剥がれたそれに、一瞬呼吸が止まる。
「大丈夫、いけるよ」
「…ん」
緋山先生の言葉に再度集中し直して、丁寧にていねいに、剥がしていく────。
ガーゼが取れて顔を覗かせた臓器たちは、綺麗なままだった。
「よし…、出血止まってる」
「腸管損傷、修復しよう」
そこからは白石先生に交代した。
こうして皆の協力あって、秋本さんは一命を取り留めることに成功した。
無意識に肩の力が、抜けていく気がした。
藍沢先生と白石先生とともに、中央手術室の前で待っていた奥さんに、手術が無事成功したことを伝える。
「……昨日、夫は生きたいのかと仰っていましたよね。
本当のことは、正直私にもわかりません。
でも────秋本さんの身体は、生きたいと訴えてくれました。
私たち医者ができるのは、その訴えを受け止めることです」
それに続けるように、藍沢先生が隣に立つ。
「ダメージコントロールは、患者さんの生命力に問いかける行為です。
秋本さんの身体は────生きたいと応えてくれた。
彼女の言うとおり、私たちは身体が応えてくれるまで24時間待った。
けれど、心が応えてくれるまでには────きっと、もっと時間がかかると思います」
そう言われた奥さんの目から、ひどく、綺麗な涙が滑り落ちた。
心が応えるまで────。
あたたかい何かに、心臓を包まれたような気がした。
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あやみん - 名取先生が、自分に、恋したなんて、最高です!!!!! (2019年8月19日 12時) (レス) id: ac50c68a33 (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 16話、朝日は登りつつではなく朝日は昇りつつ、ではないでしょうか? (2019年2月10日 15時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 14話、以外にも耕作だった。ではなく、意外にも耕作だった。ではないですか? (2019年2月2日 21時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 13話冒頭、横峯さんではなく横峯ではないですか?意図されてでしたらすいません (2019年1月18日 22時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
rabbit - 32の下から9行目「手術中にに」となっています。間違っていたらごめんなさい。 (2018年10月6日 23時) (レス) id: fec1ec90ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月1日 0時